第二話 王女と側近の旅立ち
2026年1月18日投稿
第一話の投稿からギリギリ1ヶ月です。(年内投稿はできませんでした…)
話が、全然進まない…!
「ふぅぅ。今日はとってもつかれたわ!ハルカ、かみをやってちょうだい!」
夜。広めの寝室で、金髪の女の子が化粧台の前で胸を張る。
「…侍女の仕事。マリーに頼んで」
寝台に寝そべっていた黒髪の女の子はすげなく断る。高貴な女性の身の回りの世話をするのは、侍女の仕事だ。
「そ、それはダメよ!エレノアと別れてからこの屋敷まで、ずぅっとしかられてたじゃない。きっと、まだ怒ってるわよ」
「…だいじょぶ。きっともう怒ってない」
焦った様子の友人を、振り返りもせずにうつ伏せになる。侍女の静止を振り切って独断専行したことを、道中ずっと叱られ続けていたこと自体は事実である。
「そんなの分からないじゃない!マリーは根にもつタイプよ。昔のいたずらのこととか、今でもねちねち言われるもの!」
「…それはそれ。マリーは職務に忠実」
「うぅ、でも…」
「…マリーは意地悪じゃない。アデルも知ってる」
幼い頃から身の回りの世話をしてくれている、歳の離れた姉のような存在。王女である自分に真っ向から向き合ってくれる貴重な存在。
そんな彼女の性格を、アデルが理解していないはずはない。
「そ、それは分かってるわ。今日しかられたのだって、あたしたちを心配してくれてたからだっていうのも。でも…」
「…アデル。逃げちゃだめ」
ハルカは、友人が言葉を濁す理由を悟っている。核心をついた言葉に、アデルはたじろいだ。
「!に、逃げてなんかないわ!いいわ、そんなに言うなら、かみはマリーにやってもらうもの!ハルカには頼まないから!」
売り言葉に買い言葉。口をつくように飛び出した言葉。しかし──
「…ん。じゃあ呼んでくる」
「………。え、ちょっ、まだ心の準備が──」
「…連れてきた」
「──早すぎるわよ!?」
──黒髪の友人は、あまりにも効率的だった。
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朝。輝くような金髪をツインテールにまとめたアデルは、腕を組んでそっぽをむいていた。
「………」
「…おはよ。アデル」
朝食を済ませ、大きな室内には二人きり。
「………(フイっ)」
話しかけられたアデルは、しかし、話す気はないとばかりに顔を背けた。
「…今日もずっと馬車。平気?」
「………(プイっ)」
普段通りに接するハルカに、あくまで不満を示し続けるアデル。
とはいえ、同い年の友人との喧嘩など日常茶飯事。不機嫌な様子に臆せずにハルカは正鵠を射る。
「…マリーと仲直り。できた?」
「………。それは、できたけど…。でも、あたし、昨日のことはまだ許してないから!」
結果に対しては感謝しているものの、パワープレイへの不満の方が大きい。しかも、
「…ん?何かしたなら謝る」
この黒髪の友人は、問題の本質自体は理解どころか認識すらしていない。
「〜〜〜っ!!!そういうところよ!!!」
「…むう。また間違えた。ごめん」
表情を変えずに考え込む。
アデルは知っている。一見無表情なこの友人は、その実、とても優しい心根を持っていることを。
「………もう。あたしもムキになってたわ。ごめんなさい」
「…ううん。私が悪い。きっと強引すぎた」
とはいえ。
「それはそうよ!ちゃんと反省してよね!」
普段やられっぱなしな分、責められる機会は貴重なのだ。
「…むむ。そう言われると腹が立つ」
「ふふん!ハルカが悪いのは事実だもの!」
正当性がある以上、思う存分勝ち誇らせてもらう。
「…ん。その喧嘩、買った」
結果。ハルカは逆ギレした。いつものことである。
「買った、ではありません」
突如、氷のような声が降り注ぐ。
「っ!?ま、マリー!い、いつからいたの!?」
アデルが驚愕とともにハルカの背後に目を向ける。
主人の視線を受け、妙齢の侍女が頭を下げる。
「姫様。ご歓談の最中に失礼いたします」
「言うのが遅くない!?部屋に入る前に言うやつよね、それ!」
「…ん。入室の前に確認。するべき」
「当然、確認いたしました。ご歓談に夢中なご様子でしたので、無作法を承知の上で入室させていただきました」
含みのある発言に、ハルカがハッと気がついたように呟く。
「…む。私の仕事だった」
「………。そのお召し物を着ているとはいえ、ハルカ様は姫様の乳姉妹──側近です。下女はおろか、侍女のような振る舞いもお控えください」
出立の支度に大童なメイドたちがハルカを同僚と誤認してしまったのだろう。出先で王女と令嬢に共の一人もいないのは仕事調整のミスである。
とはいえ、王女の側近であるハルカにメイドや侍女の仕事をさせることはできない。
「………?側近と侍女って違うの?」
アデルの素朴な疑問に、専属侍女は恭しく答える。
「殆どの貴族令嬢にとっては大差のないものです。しかし、王族の側近は大きな役割を担います。特に、姫様の側近はもうハルカ様お一人しかおりません」
「!そういえば、お兄様には三人も側近がいるわ!」
「はい。幼い頃より共に育ち、決して背信することのない腹心の部下であり、唯一全面的に心を許すことができる友人。心身のケアと雑務の代行、成長のサポート、不得意分野のカバー等々。様々な役割が期待されています」
「そ、そうだったのね。………。でも、一緒に遊んでる記憶しかないわよ?」
「…ん。会ってる時は、そう」
「側近は補充の効かない人材ですから。恥ずかしながら、ハルカ様には複数人分の業務を担ってもらっている現状です」
幼い頃から共に育つ。本当に幼い頃ならば、側近は王族と同じ部屋で寝泊まりすることすらある。そこまでして不朽の絆を育むのだ。
それ故に、王族にとって側近はかけがえのない存在となる。
「さ、さすがハルカね…。あたし、めいわくかけてないかしら?」
「…ん。手順書もあるから」
どうやら、マニュアルがあるらしい。
「手順書があるの!?」
「手順書があるのですか!?」
普通はマニュアルなどないらしい。
「な、なんでマリーもおどろいてるのよ!?」
「も、申し訳ありません。側近の業務は属人性が極めて高いので、手順書など存在しないはずなのですが…」
当然のことである。王族一人一人はそれぞれ性格も特性も異なる上、側近との関係性まで様々だ。
普通の仕事であっても見て学ぶ時代の、殊更に属人的な仕事なのだ。相当特殊な事情でもない限り、マニュアルなど存在するはずもない。
「…アデルの側近用。とても便利」
「それは………。なるほど。そういうこともあるのですね」
意味深な遣り取り。
疑念を抱きつつ、アデルは根本的な疑問を口にする。
「………?それより、マリーは何か用があったんじゃないの?」
侍女は、当初の目的を思い出す。
「そうでした。申し訳ありません、職務に戻ります。………コホン。姫様、ハルカ様。馬車の準備が整いました。いつでも出発できますよ」
「そうなのね!それなら、早く行きましょう!あたし、早く学園に行ってみたいわ!」
アデルは、鮮やかな紅の瞳を輝かせる。
「…アデル。まだ王都を出て一日目」
「学園のある公都まであと十五日程度かかります。焦る必要はありませんよ」
「そうよね…。でも、外国に行くのも初めてだし、すっごく楽しみなの!」
二人の言葉に冷静さを取り戻しつつも、興奮は冷めていない様子だ。
「…ん。確かに」
「左様ですか。では、姫様のご都合がつき次第出発いたしましょう」
「そうね!直ぐに行きましょう!」
こうして、天真爛漫な王女は再び旅路に着いた。
2026年1月18日投稿
次回は、2月以内に投稿できれば、いいなぁ。




