第5話:「美は死なず、世界は散る」
街は、静寂に包まれていた。
しかしその静けさは、嵐の前のような異様な緊張を孕んでいた。
人々の心はすでに、嫉妬と破滅の炎に焼かれている。
「……もう、やめて……」
シエラの声は届かない。
愛も友情も善意も、すべてが破滅を生む。
リュカ、アナスタシア、そして無数の人々――すべてが、彼女の美の代償として散った。
ルーヴァが目の前に現れる。
漆黒の翼を広げ、微笑むその顔には、冷徹な遊び心が宿っていた。
「見事だね、シエラ。君が抗うほど、人は深く堕ちる。君の美こそが、破滅の源泉だ」
「……私は、もう……何もできない……」
声が震える。胸が張り裂けそうだ。
しかし、その美しい顔には、静かな決意が宿っていた。
シエラは歩き出す。
破滅の渦中で、血に染まった街を、倒れる人々をただ見つめながら、歩くしかない。
「……私は、最後まで抗う……」
その瞬間、アナスタシアが現れた。
黒い契約の影に覆われ、しかし目には苦悩の色が残る。
「シエラ……お願い……もうやめて」
だが、シエラの美しい瞳には、哀しみと決意が交錯していた。
「やめない……私は、私の美を消さない」
アナスタシアは涙を流す。
友情も嫉妬も、愛も破滅も――すべてが、ここで終わることはない。
黒い契約の力が、二人を引き裂くように渦巻く。
街中に、破滅の連鎖が広がる。
人々の心は嫉妬に狂い、憎悪に溺れ、血の香りが風に乗る。
シエラは立ち尽くし、ただそれを見つめるしかない。
誰も救えない。愛も友情も、善意も、すべては絶望に変わる。
「……私がいる限り、誰も救われない」
最後の言葉が、夜空に吸い込まれる。
その美しさは、世界を映す鏡となり、破滅の連鎖は終わらない。
ルーヴァが微笑む。
「完璧だ。君の存在そのものが、最高の悲劇だ」
そしてシエラは、一人、血に染まった街を見下ろす。
花は散り、世界は破滅し、人々は死に、しかし美は死なない。
――誰も救われない、誰も報われない。
それでも、美は、永遠に輝き続けていた。




