第3話:「友情という名の毒」
学校の廊下は、昼間の陽射しでさえ冷たく感じられた。
シエラは一歩一歩を重く踏みしめ、心の奥でくすぶる不安を振り払おうとした。しかし、その不安は日に日に、濃く、深くなっていく。
「シエラ……ねえ、少し話せる?」
アナスタシアの声は優しかった。
その瞳に、微笑の裏に潜む何かを見抜けないほど、シエラは疲弊していた。
「うん……少しだけ」
二人は放課後の図書室に向かう。
静寂の中、アナスタシアはゆっくりと口を開いた。
「ねえ、シエラ……あなたは、私たちを特別だと思ってくれてる?」
「……もちろん。友達として、ずっと大切に思ってる」
その答えに、アナスタシアの表情が一瞬硬直した。
しかしすぐに、薄い笑みを貼りつける。
「そう……ありがとう」
その夜、シエラは夢を見た。
夢の中でルーヴァが、赤い薔薇を手にひらひらと舞わせる。
「友を思う気持ちは、時に最も深い嫉妬を生む」
「どういうこと……?」
「君の美しさは、誰も救えない。それを知りながら愛し、友情を求めれば、破滅は避けられない」
目が覚めると、机の上に置かれた紙があった。
そこには、アナスタシアの文字でこう書かれていた――
「ごめんなさい、シエラ。もう、あなたの美に耐えられない……」
言葉が冷たく胸に刺さる。
友情の裏に潜む嫉妬、そして悪魔の手によって操られる運命。
シエラはただ、涙を堪えるしかなかった。
翌日、アナスタシアはシエラに近づき、冷たい笑みを浮かべる。
「ねえ、私たち、もう友達じゃないわね」
その瞬間、周囲の空気が歪んだ。
黒い影がアナスタシアの背中から伸び、まるで生き物のように蠢く。
ルーヴァの力――契約の証がそこにあった。
「アナスタシア……!」
手を伸ばすシエラ。だが、触れられるはずもなかった。
友情は毒となり、嫉妬が力となって、彼女を襲う。
その日、学園中にささやきが広がる。
「シエラって、怖い子だよね」「なんだか嫉妬深そう」
小さな噂は、やがて人々の視線と攻撃へと変わり、破滅の連鎖は次の段階へ。
シエラは孤独の中で悟る。
――愛も友情も、望めば必ず人を傷つける。
そして自分は、何も変えられない。
「……私がいる限り、誰も救われない」
胸に灯る絶望の炎。
だがその中で、シエラの美は変わらず輝き、すべてを映す鏡となる――。
花は散る。しかし、美は死なず、破滅は続く。




