第2話:「嫉妬の花」
リュカの死から数日が過ぎた。
街の人々は日常を取り戻そうと必死だが、シエラにはその「日常」がまるで他人事のように感じられた。
歩くたびに耳の奥で、あの囁きが反響する。
「準備はできているね、シエラ」
ルーヴァの声が、まるで風に紛れて彼女の心を掻き乱す。
愛した者は血に沈む。友情を求めれば嫉妬に狂う。
――それが、自分の存在の意味だと。
その日、学校では新しい友人・アナスタシアが話しかけてきた。
長い黒髪に淡い微笑。どこか計算されたような、華のある少女だった。
「シエラちゃん、昨日は大丈夫だった? リュカくん……本当に……」
シエラは微かに首を振る。
涙をこらえ、精一杯の微笑みで返す。
「ありがとう、でも大丈夫。もう……慣れたから」
アナスタシアの瞳が一瞬、冷たく光った。
だがすぐに笑顔に戻る。その笑顔は、まるで春の花のように美しかった――美しすぎた。
その晩、シエラの夢にルーヴァが現れる。
「新しい感情が芽吹いたね、シエラ」
「……誰?」
「君の周囲に、新しい“嫉妬”が生まれつつある」
翌日、アナスタシアの態度が変わる。
学校中に広がる噂、無言の視線、冷たい囁き――すべてがシエラを追い詰めた。
「どうして……?」
シエラは鏡の前で、自分の顔を見つめる。
鏡の中の美しい少女――その美しさが、また誰かを傷つけるのか。
アナスタシアは徐々に距離を縮めてきた。
友達として、慰めとして……だが、その目には微かな光が宿っていた。
――それは嫉妬の炎。
ある日、放課後の校庭で、アナスタシアはついに口を開く。
「シエラ……あなたのせいで、私、辛いの」
その声は震えている。怒りでも憎しみでもなく、嫉妬――その感情そのものが彼女を支配していた。
「ごめん……でも、私……」
シエラは言葉を詰まらせた。何を言っても、誰も救えないことを知っているからだ。
「もういいの……あなたが美しいのは、罪なのよ」
アナスタシアは背後の闇に手を伸ばす。
黒い契約の影――ルーヴァの囁きに応え、彼女は悪魔と手を結んだのだ。
その瞬間、校庭の空気がひんやりと凍る。
花は散ることを知らない。しかし、人の心は簡単に折れる。
「……アナスタシア、やめて……!」
叫ぶシエラの手は届かない。
友情は嫉妬に溺れ、破滅の連鎖が始まった――。
――花は散り、人は嫉妬に狂う。
しかし、シエラの美は今日も、何も変わらず輝いていた。




