第1話:「最初の花が散る日」
陽光はまるで祝福のように降り注いでいた。
公園の並木道、緑に揺れる風に乗って、少年リュカの笑い声が響く。
「シエラ、今日の花、綺麗だろ?」
シエラは微笑み返す。けれど、その唇の裏にあるのは、ただ静かな絶望の影だった。
――この笑顔も、彼にとって最後かもしれない。
「うん、すごく……」
言葉を飲み込む。いつも通りの、穏やかな日常。しかし、悪魔は既にその輪の中で爪を研いでいる。
突然、空気が重く歪む。
シエラの耳に、冷たい囁きが届いた。
「準備はできているね、シエラ」
声の主は、漆黒の翼を持つ悪魔――ルーヴァ。
その瞳は人の欲望と破滅を映す鏡のように輝く。
「……今日も、誰かが散る日だ」
シエラは拳を握った。何もできないことを知りつつ、彼女は抗おうとする。
そして――その時。
リュカが突然、背後の茂みへと引き込まれた。
叫び声と共に、赤が舞い、緑の葉が血に染まる。
「……リュカ!」
走り寄るシエラ。だが、そこにあったのは彼の無惨な姿だけだった。
笑顔で手を振った少年は、もう存在しない。残ったのは、冷たく、赤く濡れた空気だけ。
「……どうして……」
シエラの声は震える。
その傍らでルーヴァは、楽しげに笑った。
「君が愛するからこそ、彼は散った。これが君の呪い、シエラ」
世界は無慈悲に美しさを裁く。
愛を求めれば破滅、友情を願えば嫉妬――すべてが連鎖する。
そして彼女はただ、耐えるしかない。
「……私がいる限り、誰も救われない……」
その瞬間、シエラの瞳に炎のような決意が灯る。
美しく、儚く、そして残酷に――。
花は散った。
だが、彼女の美は、死ななかった。




