第5話
時間というものはあっという間で、今日からまた学生生活だ。
しかし、前と違うのは、ここは隣国であるアルメリア王国の魔法学園ということ。自国であるルンブレンス王国の学園と違い、平民も多く通うらしいこの学園は、身分を明かすことを禁止されている。
そのため、私は留学生ではあるものの、貴族だとは名乗れない。
あの試験は、自分の力だけでやっていけるかを判断するものだったのだろうと、今になって理解した。
まぁ、隣国の言葉くらい難なく話せる私には、特に問題などは感じられなかったが。
両親が心配そうに手配をしてくれた学園の寮は、一人部屋としては十分なものだ。
備え付けの机と椅子にタンス。
少し大きめのベッドフレームは、男子生徒に合わせているのだろう。
奥の扉にはトイレやバスルームもあり、快適に過ごせそうだ。
一通り見て回った私は、サッと魔法で掃除を済ませて、外を見て回ることにした。
本当に魔法というのは便利だとつくづく思う。
しかし、私は自分が普通では無いと知っている。
他人がいる空間では、自分自身の手で片付けることも少なくはなかった。
賑やかな通りは学園生が多く、私が一人で歩いていても特に注目されることもない。
独特のスパイスやハーブの香りは、自国になかったこの国特有のものだろう。
これからは自炊か、屋台などで購入したものを食べることになるが、それも問題は無い。
私は昔から、領民に交じって料理や畑仕事をしていた。幼い頃はなんでも楽しく、出来ることが増えるのが嬉しかった。
そんなことを思い出し、食材が今までとそこまで変わらないと分かった私は、その日の夕飯だけ購入して自室へ帰った。
一人でとった夕食は随分と久しぶりだったが、感動するようなものでも無いなと、そう思って眠りについた。
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翌朝。
鏡に映った胸元の傷を見て顔を顰めた。
朝からこんな不気味なもの、見たいものではない。
早々に制服へ着替えると、入学式が行われる会場へ足を向けた。
私の色合いはこの国では珍しいらしく、ちらちらと視線が刺さる。それでも、敵意のない視線なら、私にはどうでもよかった。
わざと成績を落として、上位クラスの中間あたりを狙っていた。予想より少し上にずれてしまったが、まずまずの成績に満足した私は、軽い足取りで教室へ向かった。
ここでも不躾な視線を向けられたが、私は気にせずにアルメリア王国の言葉で書かれた本を捲った。
春の風が爽やかというのはどこに行っても同じなのだなと、前回は知ることの出来なかった事実に頬を緩める。表面上の表情は変わらないと思うが。
しばらくして教室へ入ってきた人物をぼうっと眺める。おそらく担任だろうが、誰であれどうでもいい。
私は耳を滑り落ちていく言葉を放置して、ただずっと窓の外を眺めた。
今日の授業は、いつの間にか終わってしまったらしく、担任の教師は荷物をまとめて教室を出て行った。
その途端、明らかに他国の人間である私に、周りのソワソワとした空気が伝わるが、私が気を遣うことなどない。
荷物を纏めると、誰にも視線を向けずに教室をあとにした。
毎日、その繰り返しだった。
だんだんと、私へ話しかけようとする者は居なくなり、変わり者だという視線だけが投げられるようになった。
それでも、私の態度は何一つ変えることは無い。
「何かあったか?」
担任である教師からはそのような言葉をかけられたが、何もあるはずがない。
無言で首を振る私へ、困ったように「そうか」と言うだけだった。