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第4話

本日3話あげます。明日から21時投稿になります。

10歳の体に戻った私は、しばらくベッドの住人となっていた。


それも、私は目覚める直前に木から落ちるという事故で、大怪我を負って二日ほど意識不明だったそうだ。死に戻る前はなかった傷に、両親が驚かないのはそういう訳だ。


しかし、私はこの傷が事故でできたものではないと知っている。


辻褄があうように、何故か事故が起こっているらしいが、私は18歳まで生きた過去は本物だと思っている。


でなければ、分かるはずもない人物名も、体の内側でぐるぐると回るような不快感も。知るはずのない肉を裂く感覚も、この体が覚えているわけがないのだから。


「エリシア。今日はお庭でお茶でもしない?」


心配そうに私の部屋のドアを開けたお母様に、静かに首を振る。


「……そう。まだ、目が覚めたばかりだものね。……また今度一緒してくれる?」


そういったお母様に頷くと、少しだけ肩を落とした姿が目に入る。

申し訳ない。


けれども、もう私は失敗できないのだ。


目覚めてからすっかり無気力になってしまった私を、両親は事故の影響だと思っているらしい。けれども、私は二度と同じことを繰り返さないように、何もしないと決めたのだ。


私が『天才だ』『賢い子』と言われ始めたのは丁度この頃だ。


なんていいタイミングに戻してくれたのだろう。

賢く溌剌としていた子は、もう死んでしまったのだ。


人は、何食わぬ顔をして裏切るのだと思い知らされた私は、両親以外の人物を心から信じることが難しくなってしまった。

いつも世話をしてくれていたメイドも、庭の手入れを丁寧に行ってくれている使用人も。誰も。


私は事故で外に出るのが怖くなったと、傷痕を人に知られるのが嫌だと、そう言って面会謝絶した。

心配してくれる領民にも、お茶会の際によく話をしていた友人にも。もちろんカイトにも。


ため息をついた私は、部屋を見渡してギリ、と奥歯をかみしめた。


熱く燃えるような、身体の底から煮えたぎるような嫌悪する気持ちを落ち着かせ、部屋に入ってきたメイドに静かに告げた。


「この部屋。変えたいのだけど。」


目に映る壁紙の濃い緑が、カイトの瞳を思い出させ、吐き気が込み上げた。

照明のオレンジ色の光もまた、憎々しい顔を思い出させ、叩き割りたい衝動に駆られる。


じっと見つめると、驚いた表情をしたメイドは緊張したように「は、はい!」と大きく返事をして出ていった。


何か用事があるならそれが終わってからでいいと思ったが、素早く動き出した彼女に早く変えてくれるのならいいかと、ベッドに体を沈めた。


指示をする前に出ていったメイドが気付くように、ベッド横のサイドテーブルに書置きを残してもう一度目を閉じた。


****


春の日差しに目を細めて、静かにカップに手をつけた。


相変わらず引きこもりを続けていた私は、ようやく最近になって、こうして庭に出るようになった。


12歳となった私は、前回と違い婚約者も縛りもない生活を楽しんでいた。


「……こんなに気分がいいのは久しぶり。」


鼻歌を歌い出しそうなほど気分がいいのは、私の願いを両親が優先してくれたからだろうか。


先日、夕食の際にお父様に「留学をさせて欲しい」と願い出た。


「どうしても必要か?」


最初は渋っていたお父様とお母様だったが、事故にあってからの初めてのお願いに、長期休みには帰ってくることを条件に許してくれた。


前回と違い、国外に出ることを禁止されていない。


子爵令嬢である今は、カイトに会う可能性は限りなく低い。外を出歩く気もないし、身分的にも関わりは少ないのだ。

けれども、幼なじみである彼と、関わらないと言いきれないのも確かだった。


だからこそ、私は国外に出ることに決めた。

そのために引きこもり、勉強をしているように見せかけていた。


できる限り『賢い令嬢』を超えず、留学出来るほどの知識を持っていることをアピールするのは、思ったよりも苦労した。

しかし、その苦労の甲斐あって、留学の権利をもぎ取ることが出来た。


試験を行った推薦人には、なぜ今まで引き篭っていたのかと、そのような事を聞かれたが、事故の影響で最近まで外に出れなかったのだと誤魔化した。


自分の命がかかっているのだ。

多少の嘘は目を瞑って欲しい。


そんなわけで、私はもうすぐこの国を発つ。

だらだらと過ごした2年間だったが、後悔はしていない。


きっと私は留学先でも、勉強している振りをしながら自堕落に生活するだろう。


誰も私のことなど知らない。

私も知っている顔はない。

そんな国で、平穏に過ごすことが私の目標だ。

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