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『稀代の天才』、死に戻りしたので、怠惰に過ごします  作者: 海瑠トワ
第一章 記憶

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16/21

番外編『仲直り』

思ったよりたくさんの方に読んで頂き感謝です(_ _)


カイトside欲しいとお声頂き、2章を早めに書こうと準備中ですので、少々お待ちいただければと思います。


先にレナsideをあげたいと執筆中ですので、そちらも楽しんでいただければと思います。


では、番外編になります*˙︶˙*)ノ"



「もう知らない!」


ユリウスが頬を膨らませながら部屋を出ていった。


あんなに怒っているところを見るのは初めてかもしれない。


外交官補佐として、忙しく動き回っているユリウスに代わり、屋敷の采配や公爵家の仕事を引き受けていた。夜遅くまで執務をしていることもあったが、彼が頑張っているのだからと、そうするのは当たり前だと思った。


それなのに、彼は帰ってきて使用人から私の状況を聞いたのか、「働きすぎだ」と注意をしにきた。

私は、私なりに頑張っていたので、褒めてもらえると思っていた。けれども、意外な反応に文句を言いたくなるのも仕方ないだろう。


「なんでそんなことを言うの?」


「……確かに僕がうまく仕事を回せていないのが原因かもしれない。けど、君は妊娠もしていて、体調は万全じゃない。だからこそ、大人しくしていてほしいんだ。」


「それくらい平気よ。私だって自分の限界は分かっているわ。」


確かに私は夜遅くまで起きていることが多い。けれども、それは昔からだ。私の体は、あまり長い睡眠を必要としないようで、他の人の居眠りほどの時間で十分休めている。

妊娠してからは、少し気を付けるようにもしているし、大人しくしていろと言われるほど動いていない。


「……もう知らない!」


私が言うことを聞かないと思ったのか、ユリウスはそう言って夫婦の寝室を出ていった。一人になってしまった静かな空間で考える。


義父母から爵位を譲り受け、ユリウスは外交官の仕事を学び始めた。

忙しい時期に重なるように、私の妊娠が発覚してドタバタとしている。

体調を気遣ってくれる使用人たちと色々調整をし、無理のない範囲で動けていると思っていたが、ユリウスの認識は違ったみたい。


それでも、ユリウスが頑張っているのに、私だけダラダラとするのはおかしいだろう。

夫婦として支えあうべきだと、こうして仕事を引き受けていた。


「はぁ、余計なこと、したかしら。」


ため息をついてソファに腰かける。

段々と瞼が下がり、うとうとと微睡む。


ほんの少し、寝ていたようだ。

ハッとして、ベッドで寝なければと重い身体を起こした時、ドアが少し開いたことでそちらに目を向けた。


小さな隙間から現れたのは、思いのほか小さな存在で。

手のひらより少し大きめのオオカミのぬいぐるみが、よたよたと歩いてくる。誰の仕業か分かっているが、私はそのままじっと黙っていた。


すると、ぬいぐるみは私の足に縋るように手を置いて、見上げてくる。

抱き上げろということだろうか。


そっと手を伸ばして膝に乗せると、ぬいぐるみは背中に背負った紙を差し出してきた。


静かに受け取り開いてみると、謝罪の手紙のようだ。


「……ふふ。」


思わず笑って、視線を感じたドアへ目を向けると、しょんぼりとしているユリウスと目が合った。


可愛らしい人だ。


ユリウスは気まずいような表情をして、ゆっくりと部屋に入ってくる。

私を伺うように近づいてくるユリウスに手招きをすると、眉を下げてそっと私の横に腰を下ろした。


「……ごめんね。エリシアが、頑張ってくれてたのに。」


しゅん、とするユリウスが可愛くて、思わず頬に手を伸ばした。

私の手を掴んで、すり寄ってくるユリウス。


ああ、愛らしい。


きゅうっと胸が締め付けられる感覚に、自分が彼のことを愛しているのだと自覚させられる。


「好きよ。」


珍しく言葉にしてみれば、ユリウスは泣きそうな顔で「僕もだ」と言う。


「私こそごめんなさい。私の体を気遣ってくれたというのに。」


「うん……。エリシアが倒れたりしたらと思うと、心配なんだ。」


彼の顔をそっと両手で包み、引き寄せる。頬に軽く口づけを落とせば、ユリウスの顔がじわじわと赤くなっていく。

彼は私からこうして触れられたりするのに弱いらしい。


「エリシア……。」


いつもは無邪気な笑顔が、色っぽく染まるのがたまらなく嬉しい。

自分の中にこんな感情があったなんて、ユリウスと出会わなければ知らなかっただろう。


「これから気を付けるわ。だから、ユリウスもちゃんと休んでね。」


私がそう言えば、まだほんのりと赤い顔で小さく頷く。


「ほら、一緒に寝ましょ。」


立ち上がって彼の手を引くと、大人しくついてくる。

ベッドに横になりぽんぽんと隣を指し示すと、ユリウスはそっと体を滑り込ませた。


「好きだ。愛してる、エリシア。」


「ふふ。知ってるわよ。」


彼の大きな体に顔をうずめると、安心する匂いに包まれる。私にそっと力強い腕を回して抱き寄せるユリウスは、嬉しそうに頬を緩めた。


「おやすみなさい。」


下がってくる瞼にあらがえず小さく呟くと、額にしっとりとした感覚が落ちた。


「ああ、おやすみ。僕のエリシア。」


甘く額へ口づけたユリウスは、そう私へ囁く。

優しい彼の言葉に満足した私は、そのまま微睡みに落ちていった。

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