番外編『仲直り』
思ったよりたくさんの方に読んで頂き感謝です(_ _)
カイトside欲しいとお声頂き、2章を早めに書こうと準備中ですので、少々お待ちいただければと思います。
先にレナsideをあげたいと執筆中ですので、そちらも楽しんでいただければと思います。
では、番外編になります*˙︶˙*)ノ"
「もう知らない!」
ユリウスが頬を膨らませながら部屋を出ていった。
あんなに怒っているところを見るのは初めてかもしれない。
外交官補佐として、忙しく動き回っているユリウスに代わり、屋敷の采配や公爵家の仕事を引き受けていた。夜遅くまで執務をしていることもあったが、彼が頑張っているのだからと、そうするのは当たり前だと思った。
それなのに、彼は帰ってきて使用人から私の状況を聞いたのか、「働きすぎだ」と注意をしにきた。
私は、私なりに頑張っていたので、褒めてもらえると思っていた。けれども、意外な反応に文句を言いたくなるのも仕方ないだろう。
「なんでそんなことを言うの?」
「……確かに僕がうまく仕事を回せていないのが原因かもしれない。けど、君は妊娠もしていて、体調は万全じゃない。だからこそ、大人しくしていてほしいんだ。」
「それくらい平気よ。私だって自分の限界は分かっているわ。」
確かに私は夜遅くまで起きていることが多い。けれども、それは昔からだ。私の体は、あまり長い睡眠を必要としないようで、他の人の居眠りほどの時間で十分休めている。
妊娠してからは、少し気を付けるようにもしているし、大人しくしていろと言われるほど動いていない。
「……もう知らない!」
私が言うことを聞かないと思ったのか、ユリウスはそう言って夫婦の寝室を出ていった。一人になってしまった静かな空間で考える。
義父母から爵位を譲り受け、ユリウスは外交官の仕事を学び始めた。
忙しい時期に重なるように、私の妊娠が発覚してドタバタとしている。
体調を気遣ってくれる使用人たちと色々調整をし、無理のない範囲で動けていると思っていたが、ユリウスの認識は違ったみたい。
それでも、ユリウスが頑張っているのに、私だけダラダラとするのはおかしいだろう。
夫婦として支えあうべきだと、こうして仕事を引き受けていた。
「はぁ、余計なこと、したかしら。」
ため息をついてソファに腰かける。
段々と瞼が下がり、うとうとと微睡む。
ほんの少し、寝ていたようだ。
ハッとして、ベッドで寝なければと重い身体を起こした時、ドアが少し開いたことでそちらに目を向けた。
小さな隙間から現れたのは、思いのほか小さな存在で。
手のひらより少し大きめのオオカミのぬいぐるみが、よたよたと歩いてくる。誰の仕業か分かっているが、私はそのままじっと黙っていた。
すると、ぬいぐるみは私の足に縋るように手を置いて、見上げてくる。
抱き上げろということだろうか。
そっと手を伸ばして膝に乗せると、ぬいぐるみは背中に背負った紙を差し出してきた。
静かに受け取り開いてみると、謝罪の手紙のようだ。
「……ふふ。」
思わず笑って、視線を感じたドアへ目を向けると、しょんぼりとしているユリウスと目が合った。
可愛らしい人だ。
ユリウスは気まずいような表情をして、ゆっくりと部屋に入ってくる。
私を伺うように近づいてくるユリウスに手招きをすると、眉を下げてそっと私の横に腰を下ろした。
「……ごめんね。エリシアが、頑張ってくれてたのに。」
しゅん、とするユリウスが可愛くて、思わず頬に手を伸ばした。
私の手を掴んで、すり寄ってくるユリウス。
ああ、愛らしい。
きゅうっと胸が締め付けられる感覚に、自分が彼のことを愛しているのだと自覚させられる。
「好きよ。」
珍しく言葉にしてみれば、ユリウスは泣きそうな顔で「僕もだ」と言う。
「私こそごめんなさい。私の体を気遣ってくれたというのに。」
「うん……。エリシアが倒れたりしたらと思うと、心配なんだ。」
彼の顔をそっと両手で包み、引き寄せる。頬に軽く口づけを落とせば、ユリウスの顔がじわじわと赤くなっていく。
彼は私からこうして触れられたりするのに弱いらしい。
「エリシア……。」
いつもは無邪気な笑顔が、色っぽく染まるのがたまらなく嬉しい。
自分の中にこんな感情があったなんて、ユリウスと出会わなければ知らなかっただろう。
「これから気を付けるわ。だから、ユリウスもちゃんと休んでね。」
私がそう言えば、まだほんのりと赤い顔で小さく頷く。
「ほら、一緒に寝ましょ。」
立ち上がって彼の手を引くと、大人しくついてくる。
ベッドに横になりぽんぽんと隣を指し示すと、ユリウスはそっと体を滑り込ませた。
「好きだ。愛してる、エリシア。」
「ふふ。知ってるわよ。」
彼の大きな体に顔をうずめると、安心する匂いに包まれる。私にそっと力強い腕を回して抱き寄せるユリウスは、嬉しそうに頬を緩めた。
「おやすみなさい。」
下がってくる瞼にあらがえず小さく呟くと、額にしっとりとした感覚が落ちた。
「ああ、おやすみ。僕のエリシア。」
甘く額へ口づけたユリウスは、そう私へ囁く。
優しい彼の言葉に満足した私は、そのまま微睡みに落ちていった。




