第15話
あれから無事に結婚式を迎えた私たちは、アルメリア王国の外交官補佐として忙しくしている。
私もまだまだ、ユリウスのお義母様に学ぶことが沢山ある。
最近知ったことだが、ユリウスはとても嫉妬深いらしい。
お母様からの手紙に書いてあったのだが、あの夜会での騒ぎのあと。
ユリウスは外交官として正式にルンブレンス王国へ抗議したそうだ。
内容としては『カイト・ベルマン侯爵子息が我が婚約者に言い寄っている。貴国では許されている行為なのか。』ということらしい。
他国の外交官、しかも権力の強い公爵家から言われたのだ。
国としては何もしませんでは許されない。
カイトは、今すぐにと彼女と婚姻させられ、領地へ追いやられたと聞いた。
風の噂で聞いた近況は、あまり良くはなく、苛立つカイトから暴力を受けた彼女は実家へ帰り、カイトは表に出てこなくなったそうだ。
私と違う状況とはいえ、愛していた人に捨てられる痛みを理解しただろう。
こんなことを思う私は性格が悪いのだろう。
人の不幸を積極的に願う訳では無いが、彼らだけが幸せになるのはなんとも言えない気分だったから。
そんなことをユリウスに言ったら、「そんなことは無い」という否定が返ってきて、呆れながらも安心してしまう。
あれから、ユリウスには私の一回目の記憶も話した。
最初は驚きながら聞いていた彼だったが、やはり私の過去の話の齟齬が気になっていたらしい。納得した様子のユリウスに、やはり優しい人だと思った。
だって、私だったらついおかしいと指摘してしまうだろうから。
そんなことを話していたら、ユリウスは真剣な顔をして「彼を愛していたのか」と聞いてきた。
「……ユリウスに対する気持ちと、彼に対する気持ちは違うわ。彼が誰と過ごそうと私は気にしなかったもの。」
首を傾げてそう言った私を、ユリウスは安心したように見ていた。
「過去の話だと分かっていても、妬ける。僕の見ていない君を知ってるなんて、その記憶消してやりたいな。」
物騒なことを言う彼は、拗ねたような表情で口を尖らせていた。
「今の私がエリシアよ。」
私がそう言ってサラサラの金髪を梳くと、一瞬目を見張った彼は嬉しそうに笑った。
「そうだね。愛してる、エリシア。」
出会ってから6年程経つが、無邪気な笑顔は変わらない。
甘い言葉やスキンシップは増えたが、彼のいつもの笑顔には安心する。
そんなことを思い出しながら、お母様からの手紙に目を落とした。
元気に過ごしているらしく、最近子爵家の跡継ぎにと養子を貰ったそうだ。
私の弟となる子はとても優秀で、まだ12歳だそうだが、聡明だと言われているらしい。
いつか会いにおいでと書かれており、ユリウスとまた予定を合わせたいと考えて席を立つ。
そろそろユリウスの集中が切れる頃だろう。
報告したいことが今日はあるんだ。
「驚くかしら。それとも喜ぶかしら。……きっと、どっちもね。」
そう言いながら、お腹の中の新しい命に話しかける。
「あなたのパパは、とてもかっこいいのよ。元気に産まれておいで。」
ゆっくりとお腹を撫でると、まだ形ができたばかりであろう小さな存在が揺れた気がした。
ユリウスの反応を思い浮かべながら、私は彼の執務室へ足を向けた。
窓の外では木々が生い茂り、爽やかな風が吹いている。私はご機嫌に鼻を鳴らしながら、重厚なドアを開けた。
一旦ここで完結とします。
ここまで読んで下さりありがとうございます。