表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『稀代の天才』、死に戻りしたので、怠惰に過ごします  作者: 海瑠トワ
第一章 記憶

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/21

第14話

婚約が調って穏やかな日々が流れていた。

18歳となった私は学園を卒業し、ルンブレンス王国に一度帰ってきていた。


婚約が調ったことで、寂しいが応援していると両親にうるうると見つめられ、私もついポロポロと泣いてしまった。

少し寂しいのは私もなのだ。


そんな両親から、着飾ったエリシアが見たいと言われ、断れるわけが無い。


たまたま本日王宮で夜会があり、それに参加するために、首元まで隠れるドレスを着ている。

これは私のためにと、ユリウスが用意したものだった。両親の為に着ると説明した時、一番に見たかったと拗ねたように言われ、機嫌をとるのが大変だった。


「綺麗よ。ね、あなた。」


「ああ。そうだな。」


そんな両親の会話に恥ずかしくて、小さく「ありがとう」と呟いて会場に足を踏み入れた。

知り合いに挨拶に行くと言う両親を見送り、壁際にそっと立つ。


キラキラと輝くシャンデリア。

淡い黄色の光でユリウスの髪を思い出して、会いたくなった。


まだ始まったばかりだ。気合いを入れなくては。

そう思い直して会場を見回した時だった。


後ろから腕を掴まれ、何事だと振り向いた。

咄嗟に振り払った手は、かつて私を見捨てたカイトだった。


なぜ?

今回、私は彼とほとんど関わりがない。

それなのに、なぜ彼は後ろ姿しか見ていない私の腕を掴んだのだ。


──彼も、記憶があるのか?


そう思った私は、胸の内側を這い回る嫌悪感を払って、掴まれた腕を擦りながらじっと見上げた。


「……どなたでしょうか?」


貴方なんて知らない。

そんな思いを込めてぼんやりと見上げる。

カイトは息を呑んで目を見開いた。


「……エリシア。」


彼の声に不快に思い、眉を顰める。

すると私の後ろから、引き寄せるように腕が伸びてきた。いつもの温かな匂いに頬が緩む。


「……僕の婚約者になにか?」


ユリウスは、今回アルメリア王国の外交官の代理として、この夜会に参加していた。

私の両親へ挨拶に来るついでに、彼は彼の両親から「参加してこい」と招待状を受け取っていた。だからこそ、私が本日参加するのを許してくれたのだが。


ユリウスの鋭い声にカイトは呆然としている。その横から弾んだように、彼の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「カイト?」


オレンジ色の瞳をカイトへ向けた人物は、何があったのかと言うようにキョロキョロとする。

カイトの幼なじみで、前世友人だった──レナ。


前世、レナ・グレーシルは、元々カイトの婚約者候補だった。しかし、そこに私が現れた。

申し訳なくて、私が彼女に謝ると「2人が幸せなら嬉しい」と言ってくれていた。


私はそれを信じていた。

あの日、牢の中で彼女の嘲るような笑みを見るまでは。


じっと彼女を見つめる。

困惑している様子から、彼女は何も知らないのだと理解した。


どうせ今世で罪に問うことは出来ない。確かに恨んでいたが、今の幸せを奪われたくない。その気持ちの方が強かった。

もう、彼らが私へ関わらなければ、なんでも良かった。


そう。

今世はちゃんと婚約者になったのね。


そう皮肉を込めてカイトにふっ、と鼻で笑った。


私の様子をじっと見ていたユリウスは、何となく理解したのか、ちら、とカイトを見ると首を傾げた。


「エリシア、お知り合い?」


心配した様子がないことから、彼は私がカイトを嫌悪していることを悟った、と理解した。


「いいえ、微塵も。」


ユリウスに縋るように彼の腕に手を添える。ゆるゆると首を振った私を、守るようにユリウスは抱き寄せる。


「え?なに?カイト?」


レナは困惑しながらもカイトへ手を伸ばす。しかし、彼はそんなレナの手を振り払い、私をじっと見ていた。

その縋るような緑の瞳が気持ち悪い。

貴方が先に捨てたくせに。


「エリシア、行こうか。」


カイトの視線を遮るように、ユリウスは体を滑り込ませて私に微笑んだ。


「エリシア!」


「僕の婚約者の名前を呼ばないで貰えるかな?エリシアは君を知らないと言った。誰だか知らないが、他人である君が僕の大切な人を呼ぶな。」


顔だけ振り返ったユリウスは、冷たく言い放つ。ユリウスの大きな体で抱きしめられ、私からカイトは見えないが、何も言えずに立ち竦んでいるだろうことは分かる。


「……でも、エリシアは……。」


これだけユリウスに注意されたにも関わらず、彼はまだ口を開く。とてもしつこい。


「……おい。何度言えば分かる?」


「ユリウス。大丈夫よ。」


とうとう堪えきれなくなったのだろう。

声を荒らげそうな雰囲気に、ユリウスへ声をかけた。そして一歩前に出るとカイトを見上げる。


「……どなたか存じませんが、貴方の愛した彼女は死んだのです。人違いです。」


ユリウスに支えられながら話す、私の言いたいことが分かったのか、カイトは膝から崩れ落ちた。


「カイト!?」


「……うるさい!お前のせいだ!」


駆け寄ったレナを睨みつけながら、怒声を上げるカイト。そんな彼に好奇の目が集まり、それらから隠すようにユリウスが私を引き寄せる。


「お前のせいで……俺は、俺はっ!」


気が狂ったように叫び出す彼を置いて、ユリウスとその場を離れた。


騒がしい会場から離れ、バルコニーへと足を踏み入れる。ユリウスに添えていた手が引かれ、ぽす、と頭を彼の胸に埋めるように撫でられる。

見上げると、心配そうに眉を下げるユリウスが映り、くすくすと笑う。


「大丈夫よ。……少しスッキリした、って言ったら酷いと思う?」


「思わない。僕が大事なのはエリシアだ。」


真剣に答えてくれるユリウスに安心する。


「ふふ、それならいいわ。」


彼の背中にそっと腕を回すと、優しい声で「愛してる」と言われる。


私はほんの少しだけ迷って口にする。


「私も。…………愛してる。」


いつもは言わない愛の言葉に、ユリウスは満足したように綺麗に微笑んだ。月明かりに照らされた彼の髪がキラキラとしていて、目が離せなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
この周回において、カイトがエリシアに未練有りげな態度を取ることによって、 「多分、カイトにも前の周回の記憶がある」 「カイトはエリシアの無実を把握済みである」 などの事象が推察可能ということでしょうか…
ヤキモチ焼きなユリウスがちゃんとエリシアの気持ちを優先していていいですね。 親にさえ嫉妬するから、たとえエリシアが塩対応しててももっとカイトに妬くかと思ってました。 ちょっと気になったのは、カイトの…
貴方の愛した彼女は死んだ、という言葉が効くことをエリシアは何故、理解していたのでしょうか? エリシアが最後に見たカイルは冷たい目をして裏切った姿です。カイルも戻ったと仮定したところで、どの時期のカイル…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ