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第12話

本日2回更新します

「……えっと、エリシア?そんなに見つめられると、流石に照れるな。」


机を挟んで向かい側で、耳まで赤く染めたユリウスが言った。


また、ぼうっとユリウスを見ていたらしい。

あれから、何事も無かったかのように振る舞う彼と、穏やかな日々を過ごしている。


ユリウスは、私が倒れた理由も何も聞かない。

気にならないのだろうか。


「……なんで何も聞かないの?」


つい、声に出してしまった。

するとユリウスは眉を下げて、困ったように笑う。


「だって、エリシアが苦しそうだから。」


確かに、今までだったらそうだったかもしれない。けれど、今はなぜだか大丈夫だと確信があった。

ちらりとユリウスを見上げ、ぽつぽつと話し出した。


「……私はね、昔から仲が良かった人に裏切られたの。ずっと仲がいいと思っていたのは私だけで、あの子は私を憎んでいたみたい。私の才能が疎ましかったか、将来を誓った彼が好きだったのかも。」


静かに語り出した私を、ユリウスはじっと心配そうに見つめていた。


「私は、知らずにじわじわと追い詰められていたの。最後、彼女は私に罪をきせた。……悔しかった。気付かなかったことも、最後まで信じていた自分の愚かさも。将来を誓った彼も、きっと彼女の嘘を信じていた。」


戻ってくる前の話だ。繋がらない点もあるだろうが、それでも彼は何も言わずに聞いてくれている。


「なにもかも嫌になった私は、自分自身を傷つけた。……私の体には傷がある。自分が弱かった証拠。……それでも、好きだと言える?」


私の問いかけにユリウスは目を見開いている。

そして、顔を顰めるとゆっくりと口を開いた。


「痛むかい?」


「……だいぶ薄いから平気よ。」


「違うよ。エリシアの心の方。」


ユリウスの穏やかな声に言葉が詰まった。

まだ完全に癒えていない心の傷。でも、確かにユリウスによって痛みは和らいでいる。


「……きっと、貴方のおかげね。」


私がそう言ってくす、と笑うと、「そっか」と微笑んでくれる。


「僕はエリシアが好きなのは変わらないかな。」


先程の問いかけの答えが返ってくる。


「……好きって、どういう気持ち?」


私が首を傾げると、頬杖をついたユリウスは空を見上げて考え込む。


「……んー、難しいこと聞くよね。人それぞれだと思うけどな。」


「人それぞれ?」


ユリウスの言葉を繰り返すと、彼は私をゆっくりと見る。


「うん、僕は君を守りたいって気持ちが強いかな。」


「……。」


守りたい?

でもそれは、比較的色んな人にも当てはまることで。決定打にするには違う気がした。


「君の笑顔を見たい。君は笑っていて欲しい。そうさせるのが僕ならとても嬉しい。けど……僕じゃない人に笑いかけるのは、少し、妬ける、かな?」


妬ける……。

ヤキモチということか。


カイトが他の子と話している姿を見るのは、微笑ましいと思っていた。会話を続けようと頑張る姿を、応援していた。

彼に対するものは、親心のようなものに近かったのかもしれない。


そう感じた私は、目の前の青い瞳を見つめた。


ユリウスが、他の子に微笑んでいたらどうだろう。私を見る瞳と同じように、他の子を見る目に熱を含んでいたら。


そこまで考えて、モヤモヤとした心に答えが出た気がした。


不思議そうに首を傾げた彼は、綺麗な金髪を耳にかけた。

その彼の綺麗な髪に触れたい。そばにいて欲しい。


その優しい瞳に私だけを映して欲しい。


──そうか、これが恋というものか。


理解した途端、苦しさのような嬉しさのようなものが込み上げる。じっとりと汗ばんだ手のひらを眺めて、ゆっくりと口を開いた。


「あぁ、私も同じ気持ちみたいだわ。」


私の小さな言葉に、彼が息を呑むのが分かった。


「……ほんと?」


確かめるように呟いて、恐る恐る私へ近づいてくる。


「……そう言ってるじゃない。」


一歩一歩近づいてくる彼に、ドクドクと心臓が跳ねて緊張してしまう。

そっと私が座る椅子の前に、ユリウスは跪くようにしゃがんだ。


「僕はエリシアが好きだよ。……エリシアは?」


青い瞳が海のように深くなった気がした。真剣に見つめるユリウスに、顔が赤くなるのが分かる。

慌てて隠そうとすると手首を掴まれ、彼の手がほんの少し震えていることに気づいた。


「さっき、言ったじゃない。」


恥ずかしさで喉がきゅっと締まり、声が震える。


「違う。エリシアの言葉で、ちゃんと聞きたい。」


獰猛な光を宿したような瞳から目が離せない。

彼は、分かっているはずなのに。

私が恥ずかしがっていることも知っているのに、聞いてくるユリウスが憎らしい。それなのに、私の心臓は彼が好きだと言っている。


「……うぅ。」


なんて拷問だ。

言わなければ終わらない雰囲気に、私は勢いよく顔を上げてユリウスを睨みつけた。


「……好きよっ!」


言い終わると、ふいっとそっぽを向いて口を尖らせる。子供っぽい仕草であることは重々承知しているが、そんなことどうでもいいくらい胸が高鳴っていた。


「ありがとう。僕も。好き。」


ユリウスの嬉しげな声に胸が詰まった。

私は涙脆くなってしまったみたいだ。


愛おしげに見つめてくる彼に頬を拭われながら、こんな日々も悪くないと思っていた。

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