第11話
「え、エリシア!?どうしたの?どこか痛い?」
わたわたと慌て出すユリウスに、どうしたのだろうと思うと、そっと頬に手が伸びてくる。
彼のその仕草で自分が泣いているのだと理解した。
「え、あ、どうしよう。えっと……。」
立ち上がりうろうろと落ち着きのないユリウスに、ふっ、と笑いが零れた。ユリウスはハッとしたようにこちらを見ると、安堵したように微笑む。
「……良かった。笑ってくれて。」
その優しい言葉に、胸がぽかぽかと温かくなる。
「心配性ね。」
くすくすと笑うと、口元を押さえた手と反対の手をユリウスに取られる。
「うん。僕、エリシアが好きだから。」
さっきまで無邪気に笑っていたユリウスは、ほんの少し大人びた表情で笑う。
じっと見つめられる瞳が熱い気がして、ドキッと心臓が跳ねたのが分かった。
「……あ、あはは、私も友人としてユリウスが好きよ。」
彼が言っているのはそういう事だ。
自分に言い聞かせるように、口にして微笑んだ。
するとユリウスは、熱く大きな手で私の手を包む。
「好きだよ。エリシア。」
彼は真剣な顔で私を見つめる。
時が止まったように動けなくなり、彼から目が離せない。
バクバクと耳の奥で響く心臓が、これが現実だと教えてくれているようだった。
「ふふ、困らせたね。大丈夫、返事を求めてるわけじゃないよ。……僕は君の味方だって知って欲しいだけだよ。」
固まってしまった私を気遣うように、ユリウスはヘラッと笑った。
「え、あ。……うん。」
何も言えなくなった私は、ユリウスの言葉にただ甘えてしまった。
「帰ろうか。寮まで送るよ。」
そう言って私の手を引くユリウス。
そっとベッドから足をおろして、黙ったままついていく。
既に暗くなっている空は月が出ており、余計に静かに感じた。
『好きだよ。』
ユリウスの言葉が頭の中で繰り返される。
ちらりと見上げた彼の顔はいつも通り穏やかで、先程のことが嘘かと思えた。
しかし、手をぎゅっと握られる感覚も、熱く見つめる青い瞳もはっきりと覚えている。
「ん、着いたよ。……ゆっくり休んでね。」
そう言って離した手に握らされる紙袋。
確認をする前に、ユリウスが背を向けた事でハッとする。
「あ、ありがとう。」
「うん!」
振り返ったユリウスは元気よく返事をすると、手を振ってそのまま月夜に消えていった。
ユリウスの温かさがほんのりと残る紙袋を抱え、自室へ入る。
なんだろうと確認した中身は、私が美味しいと言った食事たち。
二人で笑いながら食べたことを思い出して、目の奥が熱くなった。
私が寝ている間に、買いに行ってくれたんだ。
──私が好きと言ったものを。覚えているんだ。
そう思うと、よく分からないうちにポロポロと涙が頬を伝った。ぽたぽたと落ちる雫が紙に広がる。
ぎゅっと苦しくなった胸を押えて蹲る。
ユリウスの優しさが苦しかった。嬉しいのに、苦しい。
喉の奥が詰まり、涙と共に嗚咽が漏れる。
私はユリウスのことをどう思っているのだろう。
信じたい。
そう思った時点で、ユリウスのことは好きだと気付いている。
けれど、彼と同じ意味だろうか。
分からない。分からないの。
天才だと言われる頭脳があるのに、自分の気持ちが分からない。
私が彼を好きだと言ったら、彼は一緒にいてくれるのだろうか。
私が好きではないと答えたら、彼は離れていくだろうか。
だったら、私は彼を「好き」だと言うだろう。
そんな浅ましい考えが脳内を占める。
恋とはどういうものなのだ。
世の恋人たちは、どういう想いを恋と呼ぶのだろうか。
止まらない涙を拭いながら、窓の外を見た。
いつもと変わらない月に、鼻を啜って熱い息を吐いた。
「……たべよ。」
お腹が空くから悪い考えが回るのだ。
気分を切りかえて立ち上がる。
泣きながら食べたサンドイッチは、この間食べたものよりも少ししょっぱい気がした。
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