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 当初の目的地のファミレスに二人で入った。

 だが、笑っているのは花坂だけで俺は顔を下に向けていた。側から見ると、脅されているようにしか見えないので、花坂には見えない位置で店員さんが俺に電話した方がいいかジェスチャーで聞かれたので、首を横に振った。

 何故なら、彼は悪い人では全くないからだ。


「先輩」


「はっ、はい」


「何か頼むか?」


 そう言って、メニュー表を渡された。


「あっ……」


「俺はハンバーグのセットにするけど、先輩は?」


「俺も同じで……」


 そして、花坂が注文してくれた。


「あの……花坂?」


「何だ?」


「さっきはごめん」


 そう言って頭を下げると、花坂は驚いていた。


「何で謝るのかわからないが、俺は嬉しかった」


「えっ?」


「先輩は嫉妬? してくれたんだなって……俺のお菓子にだが」


 俺が嫉妬? お菓子に? ……いや、俺がしたのは……。


「俺がしたのは……嫉妬だ。俺のために作ってくれたお菓子を誰かに取られたくなかったんだ」


 俺は自分で言った言葉に一人で納得していた。


「花坂のものは俺のものだから……って、こんな自分勝手嫌だよな」


 ははは……と苦笑いしていると、彼が俺の手をとった。


「先輩……俺は先輩が好きだ」


「…………っ」


 花坂は真っ直ぐに俺を見る。その瞳は俺が好きだとはっきりと伝えてくる。俺はその顔を真っ赤に染めた。


 花坂に心臓を鷲掴みにされたからだ。


「……俺も、お前が好きなの……かも……」


 聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声でつぶやいた。だけど、彼の耳にしっかりと届いたようで、テーブル越しに抱きつかれた。


「嬉しい! 絶対にあんたを幸せにする」


 彼の言葉がスーと胸に入ってくる。俺は顔を綻ばせた。彼の背にゆっくりと手を回した。


「よろしく頼む」


 すると、周りから拍手が巻き起こった。先程心配していた店員も大きな拍手をしていた。


 俺は恥ずかしくなって、彼を押し返すが動かない。


「はっ? 元の位置に戻れって……」


「離したくない」


 彼のその甘えた声色に俺は自分の隣を軽く叩いた。


「…………じゃあ、隣にこいよ」


 すると、彼は俺から離れて嬉しそうに俺の隣に腰掛けた。


 恥ずかしいが、嬉しさの方が勝ってしまった。俺は彼に笑いかけた。


「俺に餌付けをしてくれてありがとう」


「…………どういたしまして」


 彼は俺から顔を逸らした。しかし、耳は真っ赤になっていたので、俺は小さく笑った。


 そして、その帰り道で俺は彼に聞いた。


「どうして、俺のことを好きになってくれたの?」


「…………聞きたいか?」


「うん……まあ……」


 だって、俺は誰かに好かれるような見た目も性格もしていない。だから……何故、花坂が俺を好きになってくれたのか知りたいのだ。


「ひっ、一目惚れだ……」


「はっ? 俺に⁈」


「そんなに驚くことか?」


「当たり前だろ⁈ 俺だよ? この平凡な顔に?」


 俺は自分の顔を指差したが、彼はニッと歯を出して笑った。


「俺には可愛い顔にしか見えない」


「はっ……」


 口をパクパクとするだけで言葉が出てこなかった。


「……俺の家、洋菓子店なんだけど……先輩が店に来たことがあるんだ」


「…………?」


 俺は思い出せなくて首を傾げた。


「flower洋菓子店」


「あっ、ああ! あの可愛いお店」


 俺は彼から店名を聞いて、記憶を呼び覚ました。その店は俺のお気に入りでよく行っていた。最近は、彼からお菓子を貰うので行っていないが……。


「花坂を見たことないけど?」


「俺は裏でお菓子を包んだりしてるだけ。だけど、俺は甘い物が得意じゃないからあんまり店が好きじゃなかった」


「えっ? 家が洋菓子店なのに?」


「家に好き嫌いは関係ないだろ?」


「まあ……」


「だけど、偶々あんたが店に来た時に、笑顔でお菓子を選んでいる姿が印象に残っていたんだ。そして、度々店で見かける度にあんたの笑顔が好きになっていった。お菓子を見るキラキラした瞳に俺が映りたくなったんだ」


「…………そっか」


「だから、高校も先輩と同じところを選んだ」


「嘘……本当に?」


「ああ。死ぬ気で勉強した」


「で? 俺と実際に話してみて……どうだった?」


 見た時と話した時では感じ方は違うはずだ。話した今でも好きだと言ってくれているが、正直どう思ったのか知りたい。


「そうだな……可愛い……だった」


「えっ……えっ⁈」


「餌付け作戦で初めは警戒していたけど、二回目以降は俺のお菓子楽しみにしていただろう? 目でわかった。キラキラした顔で俺を見てるからな」


 彼はニッと揶揄うように笑った。


「なっ……しっ、仕方ないだろ……。美味しかったんだから……」


「ははっ……餌付け成功だな」


 花坂は俺を見て嬉しそうに笑った。

 そして、ゆっくりと俺の手に手を伸ばして触れた。


 俺も彼の手を握り返す。


 これからの彼とのお付き合いは不安なことも多いだろう。だけど、それと同時に甘い幸せなことも多いはずだ。


「夏休みにも餌付けに来るからな」


「楽しみにしてるよ」


 二人は目を合わせて笑った。

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