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第55話 捜索場所は領主の屋敷で間違いないな

「ヘレンさん」


 自分のカウンターにいたヘレンは若い探索者から、おずおずと声をかけられた。

まだFランクかEランクだろう駆け出しの少年だ。


「ギンさんからハンドリーさんの同僚を運ぶよう頼まれて連れて来ました。ハンドリーさんを呼んでください」


 少年は自分の背後を振り返った。


 ギルドの入口付近に少年のパーティーメンバーが立っていて、そのうち一人がローブを着た年嵩の男を背負っていた。男は気絶しているようだ。


「医務室へ」


 ヘレンは立ち上がりカウンターを出ると男を背負っている少年に声をかけた。


 ロビーを挟んで酒場とは反対側に【回復魔法士】が常駐している医務室がある。金はかかるが探索者ならば格安で治療を受けられるようになっていた。但し、あまりにも重症な患者については対応できない。基本は応急手当のみだ。


 ヘレンは少年のパーティーを医務室へ案内しながら彼女に声をかけてきた少年に訊ねた。


「ギンさんがなぜあなたたちに?」


「帰る途中で偶々会ったんだ。ギルドへ戻るって言ったらギルドの前のカフェで魔法士が寝ているから連れ帰るように頼まれた。ハンドリーさんの同僚だからって」


 ヘレンは足を止めた。ギンならば解体所にいるはずだ。


「いつ! どこで!」


 ヘレンは強い口調で少年を問い詰めた。


 少年はびくりとした。なぜ急に責められたのか分からない様子でおどおどと、


「三十分くらい前。騎士団の練兵場の近くでだけど」


「あの人は!」


 ヘレンの口からつい恨み言がこぼれ出た。ヘレンたちには、いつもどおりの行動をとろうと言っておきながらギン自身はギルドを抜け出していたのだ。


「どこへ行くとか言っていましたか?」


「領主に会いに行く途中だって」


 殴り込みだとしか考えられない。


 ヘレンはギルドマスター室に駆けこむとハンドリーとケイトリンを連れて医務室に戻った。


「ルゴルフだ」


 ハンドリーが寝台に寝かされている男の名前を口にした。


 領主の私兵で間違いはない。ヘレンは顏を知らなかったが元Bランク探索者の【攻撃魔法士】だ。ケイトリンも知っていた。


 ハンドリーが何度も強く頬を張ったがルゴルフに起きる気配はない。


「強い『眠り』の魔法のようだ」


 医務室常駐の【回復魔法士】が症状を説明した。


「私では解けん」


「恐らくギルドを見張っていたルゴルフに気づいてギンが眠らせたのだろう」


 ケイトリンの推察の言葉は言わずもがなだ。


「すぐ寮に戻って着替えてその足で領主の屋敷に行きます」


 ヘレンは力強く断言した。


「着替える?」


 何を呑気なことを言っているのかとでも思ったのかケイトリンが訝し気に聞き返した。


 ヘレンは、べつに領主に会うからおめかしをすると言っているわけではない。


「制服じゃ戦えません」


 ヘレンが現役時代に使っていた装備は手入れをかかさず寮の部屋に置いてある。


 ヘレンは右手で拳を握ると平手にした左手に叩きつけた。


「足は?」とケイトリン。


「昨日から違和感なく使えています」


 これまでヘレンが自分の足に違和感を感じていたのはやはり心理的な理由だったのだろう。一度全力で使えた以上、もう問題はないと心が納得したに違いない。


 召喚された人間が召喚前に領主の元へ押し掛けるなど領主と探索者ギルドの関係性がさらに拗れる原因でしかない。ましてやヘレンは必要とあれば戦うつもりなのだ。ギルドマスターであるケイトリンとしては認めがたいだろう。


 とはいえギンがすでに殴りこんでいるのだとしたら何を今さらだ。


「私も行こう」躊躇なくケイトリンは答えた。「ギルドはサブマスに任せる」


「俺もだ」


 ハンドリーも追随した。


 突然、医務室の扉が開いてカイルが入って来た。


 後ろにフレア、アヌベティ、エルミラが続いていた。


「おっさんが領主とトラブったって? 俺たちも行くよ」


 耳が早い。


「そうやって他人のトラブルにすぐ首を突っ込むのは感心せんな」


 ケイトリンが呆れたように睨みつけた。


「他人じゃない。まだ本人には言ってないけど、おっさんには俺が抜けた後のパーティーに入ってもらうつもりだ。みんな、おっさんのこと気に入ってるみたいだし」


「ギンさんは後衛ですよ。カイルさんは前衛じゃないですか」


 ヘレンが異議を唱えた。


「ギンがバフをかけてベティを底上げすれば問題ないわ。私の魔法もあるし」


「オレが盾で止めればバフの時間は稼げる」


「もし怪我をしても、わたくしが治療いたします」


 本人のあずかり知らないところで三人娘はやたら前向きだ。


「でしたら私が前衛に入ります。元Bランク【馬鹿力士(ばかぢからし)】です」


 ヘレンとフレア、エルミラ、アヌベティの間でバチバチと火花が散った。


()っえ」とハンドリー。


「ヘレン、復帰する気か?」


 ケイトリンが声を上擦らせた。


「そのつもりです」


 ヘレンは神妙に頷いた。


 ここでぐだぐだ揉めているような無駄な時間はない。


「俺の代わりにおっさんとヘレンが入ってくれるなら安心だ。みんなを頼むよ」


 カイルが纏めた。


 ルゴルフはその場に残してヘレンたちは医務室からロビーに出た。


 ロビーには何十人もの探索者たちが所狭しと立ち並んでいた。全員きりりとした真面目な顔だ。


「ヘレン、ギンの捜索隊ならば編成できてるぜ」


 古参のCランク探索者が口を開いた。ヘレンは捜索隊の担当窓口だ。


「捜索場所は領主の屋敷で間違いないな」


「はい」


 ヘレンは、きっぱりと返事をした。


「皆さん、よろしくお願いします」

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