表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/61

第50話 俺の嫌いなやり方だった

「ギンさん、いつのまに『沈黙』なんてかけてたんですか? 詠唱してませんでしたよ」


 ヘレンが声を上げた。


「だから、『黙れ』だよ。味方にいつかけたか気づかれるようじゃ敵は欺けないだろ。前衛にストレスなく戦ってもらってこその【支援魔法士】だ」


 ハンドリーとケイトリンがなぜか白い目で俺を見た。


「だとしても普通は元Bランク探索者相手にはその魔法がかからないものなんだが。まあ、それで魔法が使えなくなってヘレンにやられたのか。油断禁物だな」とハンドリー。


「いや。俺が何かするまでもなくヘレンのほうが早かった。そもそも相手にならん」


「スニードルは元Bランク探索だぞ!」


 ハンドリーは大仰に驚いた。ヘレンの前職を知らないのだろう。探索者上がりのギルド職員もいるらしいが一般窓口の担当者であれば普通は元Cだ。元Dもいる。


 ケイトリンが口を挟んだ。


「ヘレンも元Bだ。一時期同じパーティーだった」


「それでギルド内の睨み役を」


 事実は違うのだがハンドリーは勝手な納得をしたようだ。


 俺は話を戻した。


「お前が俺を捕らえに来たわけじゃないなら、なぜ来たんだ?」


「だから何が起きてるのか確認に来た。元Bランク探索者の顎を砕いて『沈黙』をかけたままにするような奴は絶対お前に決まってると思ったんだ。ほぼ、あってただろう」


 確かに。


「俺が領主から私兵に誘われた話は知っているか?」


「いや」


 ハンドリーは初耳だという顔をした。


 ケイトリンに断りの話をした後も騎士団には行ったがハンドリーとは偶々会っていなかったからその話はしていない。


「そうなのか?」


「ケイトリン経由で領主から話が来たが断った。スニードルはそれが気に入らなかったらしい。そもそもCランク如きが誘われたのも気に入らなかったようだ」


「ああ。奴らはそんな感じだよ。古いタイプの魔法職だ」


「奴ら?」


「俺以外の領主の私兵たち。前衛職など自分たちの盾に過ぎないと考え攻撃魔法こそ至上と信じる者たちだ。もちろん【支援魔法士】を蔑んでいる。あそこで前衛職は俺だけだよ。活動もまるで別だ。新参者で前衛職の俺なんか除け者だよ」


「なるほど。居場所がないから騎士団に入り浸ってんだな」


 ハンドリーは肩をすくめた。


 確かに騎士団に指導役として行かされているのはハンドリー一人だけだ。もっとも【攻撃魔法士】に騎士団の前衛指導はできないだろうが。


「お前がハブにされてる事実はよくわかったよ。普通は俺と知り合いのお前に、ギンてのはどんな奴か、と聞くはずだ。スニードルと仲良し小好しじゃないんだな」


「当たり前だ」


「スニードルは生意気な俺を痛めつけに来たので間違ってないと思う。流石に殺す気まではなかったと思うが。誰かが指示したのか自分の意志かは分からない。領主だと思うか?」


「ないな。ゴスムの指示だろう。前領主時代からの古株で新領主の採用方針を苦々しく思っている。俺の採用にも反対したらしい。お前の採用には反対だがCランクの【支援魔法士】如きに袖にされるのも面白くないといったところだろう」


 ゴスムというのがハンドリーの上司である私兵の纏め役の名前だそうだ。


「しょうもない。返り討ちにあったことで諦めるかな?」


「それもないな。ゴスム本人は懲りていない。エスカレートして執拗にお前を狙って来るならまだしも搦め手でヘレンを狙うかも知れん。お前とヘレンはスニードルの前で仲睦まじくしていたのだろ?」


「はい」


 嬉々としてヘレンが答えた。


「そうだったか?」と俺。


「密着していたじゃないですか!」


「まあ、おんぶはしていたな」


「だったらヘレンを痛めつけてもお前を後悔させる目的は果たせる。より効果的かも知れん。それに【攻撃魔法士】が魔法も使えぬ前衛職に殴り倒されたなど恥だと奴は考えるだろう。汚名をそそごうとするはずだ」


「探索者ギルドとしてはこちらが被害者だ。どういうつもりでギンを襲ってきたのか確認する必要があるね。領主に質問書を送りつけよう。ゴスムが領主には隠れて動いているのだとしたら堪えるだろう」


「ヘレン、外に出る時は気を付けろよ。後れを取るとも思えないが」


 俺はヘレンに声をかけた。


「あら。ギンさんが毎日、送り迎えしてくれてもいいんですよ」


「俺への個人依頼は探索者ギルドを通してくれ」


「ギルマス権限で強制依頼にしてもいいぞ」


 ケイトリンの目が本気だ。


「職権乱用」


 俺は声を上げた。


 そんな感じで俺たちは対応策を検討した。


 どうやら俺たちは甘かったらしい。


 午後、領主からヘレンとギルドマスター宛に召喚状が届いた。


 曰く、


『当家のスニードルがCランク探索者のギンに仕官の再考を迫ろうとしたところ個人的な理由からギンを手放したくない探索者ギルドの職員に卑劣な攻撃を受けて怪我をさせられた。探索者ギルドが組織ぐるみで関わった疑いもあるため取り調べるべく召喚するものである』


 といった内容だ。


 変な形で真実が領主に伝わる前に先手を打ったゴスムがうまく領主を言いくるめてヘレンとギルドマスターを召喚するよう説き伏せたのだろう。


 一緒に現場にいた俺は蚊帳の外であるところに作為を感じる。


 召喚後の実務は、もちろん領主ではなくゴスムが担当するのだろう。お手盛り判定をするつもりに違いない。


 領主に本気で探索者ギルドと事を構える意向があるとは思えないが、殴った事実を事実としてヘレンを尻尾として切らせるつもりか?


 それとも召喚でヘレンとケイトリンがいないタイミングで俺にちょっかいを出すつもりか? 仮に元Bランク探索者二人が今後、俺の護衛につけば襲撃は昨晩以上に難しくなる。


 相手の本心は分からないが俺狙いでヘレンを巻き込むのは反則だろう。


 俺の嫌いなやり方だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
テメーは俺を怒らせた!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ