第42話 金に色はついてない
俺とハンドリーは騎士団長室へ移動した。
四つ手熊を『石化』して運んできたことを伝えるとともに『解除』の報酬で探索者の捜索基金をつくった話を伝えた。
「ハンドリーが騎士団長に話をつけて予算を確保したことになっている。どこかで探索者に感謝されたらうまいこと相手してくれ。ギルマスは領主が警戒するんじゃないかと心配していたよ」
騎士団長は大笑いした。
「メルトがどんな顔をするか見たいものだ。指導をしながら騎士団の内情を探る手筈だろうに貴公も大変だな。内通を疑われるなよ」
騎士団長はハンドリーに話を振った。ハンドリーはまるで二重スパイのような立ち位置になっている。顔が青い。
「その基金とやらは足りるのか?」
「どうだろう? 今回使いすぎたからな。長くは持たないんじゃないか」
「せっかく探索者から感謝されるようになった身だ。足りなくなってケチな奴だとは思われたくないな。積み増そう。必要な額を言ってくれ」
「助かる。俺には分からないからギルマスに連絡してもらうよ」
騎士団長は不思議そうな顔で俺を見た。
「君は金には靡かんのだな」
「ハニートラップならすぐ掛かるよ」
「ふむ」
「手配するなよ。怖くて女の子と話せなくなる」
「やめておこう。そんなつまらない人生を送るのは儂なら絶対御免だ」
「お堅い騎士団長じゃなかったのか?」
「でもない。君と知り合えたのは良い縁だったな。君に喧嘩を吹っかけた馬鹿たちを褒めてやらないと」
「せいぜい鍛えあげてやってくれ。四つ手熊をソロで倒せるようになったらCランク探索者級だ。引退した探索者を金で集めるより健全だろう。ハンドリーもご指導よろしく頼む」
ハンドリーに答える元気はなさそうだった。頭を抱えている。
「じゃあ、俺はこれで。また何か捕まえたら持ってくる」
※※※※※
探索者ギルドに戻ると新たにCランクに上がった探索者たちが合同で昇格祝いをしていた。今日の俺は奢られる側のはずだ。
その前に解体所へ行き解体職員たちに『清浄』をかけて回る。
納品を済ませたばかりの希望する探索者たちにも小銭と引き換えに『清浄』をかけてやった。
探索者ギルドは俺たちが遭難者を助けた遺跡付近へ多数のポーターを派遣していた。
放置されている四つ手熊及び八つ手熊(仮称)の死体の運搬を依頼したのだ。
解体所では、現在、絶賛八つ手熊(仮称)の解体作業中だった。
ギルドマスターも見に来ていた。丁度いい。
「四つ手熊の変異個体だな」
解体所長でもあるサブギルドマスターの見立ては魔物に詳しいCランク探索者の見立てと同じだった。解体結果を見て言うのだから間違いないだろう。
ギルマスとサブギルマスは八つ手熊(仮称)について話し合っていた。
「ケイトリン」
俺はギルドマスターに声をかけた。
「騎士団長が捜索基金を積み増してくれるそうだ。あとで当面の活動に必要な金額と根拠を教えてやってくれ」
ギルマスとサブギルマスはお互いに顔を見つめ合った。
それからくるっと顔を俺に向けジトッとした目で睨みつけた。息のあった動きだ。
「よくもまあ、こともなさそうにそんな話をさらりと持ち込んで」とギルマス。
「何だ?」
「あんたが思ってる程探索者ギルドと領都騎士団は仲良くないんだよ」
「断るか? 遭難した探索者に助かる可能性が増えるならそのほうがいいだろう。金に色はついてないぜ。判断はあんたに任せる。一探索者の俺には手に負えない話だ」
俺はお手上げとばかりに軽く万歳した。
「よく言う」
ケイトリンは諦めた様に息を吐いた。
「ギルドマスターとしてはどんな時でも探索者が生き残るほうがいい。感謝する」
「感謝なら騎士団長とハンドリーに」
俺はケイトリンたちに背を向けた。
「打ち上げに行ってくる」