第37話 俺たちは遺跡の中へ駆けこんだ
捜索が再開された。
再開前とやることは変わらない。
探索者たちが横一列になって山を歩く。
俺のいる場所だけが変更になっていた。
以前は列の端にいたが今は中央付近にいる。
お陰で俺の視界にだけ映る透明な『地図』に横一列に歩く探索者の全体像が納まっている。探索者は青い丸、俺自身は白い丸だ。
横一列の探索者とは別に大分前にもいくつか青い丸が動いていた。
前方の様子を探るための斥候役だ。
斥候を示す青丸よりもさらに先に赤い光点が現れた。赤い四角だ。
俺の認識では丸い光点は人、四角い光点は魔物を意味している。
さらに青は友好的、赤は敵対的だ。
俺たちを敵と認識する魔物が前方にいるということだった。
赤い四角は一つではなく数十がまとまって丸い輪のような形で存在していた。
その中心に青い丸が十くらい固まっている。
探索者が魔物に包囲されている状況だと考えて間違いないだろう。光点なので探索者たちは、まだ生きている。死んでいれば光はないはずだ。
地図に赤い四角を認めた俺は足を止めた。
「どうした?」と、古参Cランクが訊いて来た。
「嫌な気配がする」
本当の理由は説明できない。
そこへ前方から斥候が戻って来た。古参Cランクと同じパーティーの男らしい。ということは斥候もCランクだ。
「石の遺跡に四つ手熊が群れている」
古参Cランクが目を見開いた。
「四つ手熊が群れたなんて話を聞いた事はないぞ」
「石の遺跡?」
俺は訊いた。
「この先に根元を地面に埋められた高さ十メートルくらいの石の柱が輪のように並べて立てられた場所がある。誰が何のために作った物かわからないが昔から遺跡と呼ばれている」
古参Cランクが教えてくれた。前世でいうとイギリスのストーンヘンジみたいな感じだろうか?
「中に探索者たちがいるようだ。四つ手熊は執拗に遺跡を囲んでいる」
斥候からの追加情報だ。俺の透明な地図の光点はそういう状況を意味していたようだ。
「無事なのか?」
「わからん。柱の隙間が狭いから直接四つ手熊は侵入していない。内側から隙間に盾を向けて耐えている」
「嫌な気配ってのはそれか?」
俺は古参Cランクに確認された。
「恐らく」
「なぜわかった?」
「【支援魔法士】だからな」
それ以上の説明は難しいので逆に訊く。
「どうするんだ?」
「幸い、四つ手熊はCランクの前衛職ならばソロでも狩れる。四つ手熊を食い尽くす様な上位魔物がいるよりは百倍マシな状況だ。チームを組んで地道に削って助けに行く」
「わかった。俺は全員にバフをかけよう。かかるかは分からんがかかればラッキーだ」
古参Cランクが全員を集めて状況と作戦を説明した。
最低一人以上のCランク前衛職をアタッカーとしてDランクパーティーをそれぞれにサポートとして配置する。
俺は皆に一塊になるように声をかけた。
「気休めかも知れんがバフをかける。かかった人間は運が良かったと思ってくれ。俺の魔法を受け入れる、って意識をして」
俺は探索者たちにバフをかけた。
実際は全員にかかっているはずだが、俺の魔法は絶対にかかるとは言えないので、かかった人間はラッキーだという取り扱いにする。
古参Cランクは【攻撃魔法士】を前衛に集めた。
最初に一斉に攻撃魔法を放って可能な限り熊を減らす。
次いでアタッカー隊が飛び出し残敵を駆逐する。相手の反撃を極力受けないように先手必勝だ。
アタッカー隊が四つ手熊の数を減らしている隙に、万一に備えて俺と何人かの【回復魔法士】が遺跡に走って中に怪我人がいれば治療する。俺は中の人間に外の状況を説明する。
そういう作戦だ。
魔物に気取られないように可能な限り慎重に遺跡に近づいた。
なるほど。石の柱らしき物が並んでいて周囲を四つ手熊がうろついている。柱にのしかかったり柱と柱の隙間から中に手を伸ばしている熊もいた。
熊たちは背後よりも石の遺跡の内側に気を取られていて俺たちには気づいていない。
「行くぞ」
古参Cランクが合図をした。
【攻撃魔法士】隊が一斉に大小の火炎を放って熊を焼いた。何体かは即死した。
次いでアタッカー隊が駆けだし俺たちも後に続いて駆けた。
火傷を負ったが、まだ死んではいない熊たちとアタッカー隊がぶつかりあう。
瞬く間に何体かの熊は屠られたが遺跡の裏手にいた熊たちが回り込んできてアタッカー隊の動きを止めた。
熊と探索者の戦闘の隙間を縫って俺と【回復魔法士】たちが遺跡に向かって走る。
柱と柱の隙間を埋めるように中から盾が突き出されていた。
俺には見覚えのある盾だ。
「エルミラっ!」と、俺は盾に声をかけた。
途端に盾が引っ込められて柱と柱の隙間が空いた。
俺たちは遺跡の中へ駆けこんだ。




