第36話 捜索続行だな?
実際に捜索活動に参加した探索者は百人までは増えなかった。
参加を希望する探索者だけならばもっと多かったが万年Dランク的な探索者たちが遭難しているのでEやFの探索者が出向いても二次被害を招くだけだろう。そう考えて捜索参加の最低ランクをD以上とした。
Cランク探索者ともなると日当が小金貨一枚というのは、あまりうまみのある依頼ではない。
けれども、探索者のための捜索依頼という依頼自体が珍しい。
「金じゃねぇんだよ」
うまみはないが赤字でもない。むしろ積極的に参加したいという意向を示してくれた。
ダンジョン内で貴族のご子息様あがりの探索者が遭難した際に実家が費用を負担して大規模な捜索が行われる事例はあるようだ。大抵は遺品回収にしかならないが。
けれども探索者自身が自分のパーティーではない探索者の捜索に金を出すなど前代未聞だ。参加しなければ古参のCランク探索者としては恥だろう。俺にも行かせろ。
そういう意識が働いたようである。
「お前、他人のために金を出すなんて変わり者だな」
ある古参のCランク探索者から俺は言われた。古参と言っても年齢は俺と変わらない。
「【支援魔法士】だからな」
「他の【支援魔法士】なんか知るかよ」
「確かに」
俺は笑った。
「ここに来た時、無一文だった俺にカイルが飯を食わせてくれたんだ。他のパーティーは、ついでだよ」
「なるほど」
その古参パーティーは、すぐに出発した。
もしまだ手遅れになっていないとしたならば捜索開始は早いほうがいいだろう。カウンターでの手続きが済んだ者たちから、順次探索者ギルドを出発していく。
これまでの実績から概ね四つ手熊の生息地帯は分かっている。昨日何体か納品されているため、まだ戻っていないその他の探索者たちは、生息地をさらに奥まで進んだのだろうと結論付けられた。探索者ギルドに手続きは任せて俺もその場所を目指す。
普段から自分自身にバフをかけているが長距離を移動するために、さらにバフをかけた。
軽く走りながら目的地を目指す。
山の中だ。
先行する探索者たちの痕跡を『鑑定』で把握しながら追跡をした。同時に『地図』と『所在』の魔法もかけている。
視覚の隅に透明な地図が重なりあって周辺の様子が提示された。
その地図にさらに光点が重なり合って人や魔物の所在を指し示す。
俺が目的地に近づくと、ちらほらと『地図』に捜索している探索者たちの居場所が表示された。
複数パーティーの探索者がそれぞれ一定の距離をあけて同一方向に向かって進んでいる。誰か指揮官がいるのだろう。完全な山狩りの様相だ。
俺も列の端について歩いていく。
俺とは違って実力でCランクに上がった探索者たちは、以前、この辺りで四つ手熊を狩った経験があるようだ。
Dランク探索者たちにとっては将来の予行練習になるだろう。
そのまましばらく歩き続けたが誰一人として遭難した探索者も四つ手熊もその他の魔物にも遭遇しなかった。
「止まれ」という合図が伝言ゲームの様に少し離れて隣を歩く探索者から届けられた。
視界の中の透明な地図内の光点が左右から中央に向かって集まっていく。遅れぬように俺もその動きにあわせて動いて中央に近づいた。
山狩り隊の中心付近にギルドで話をした古参Cランク探索者がいた。現場指揮官を務めてくれているらしい。
一応、俺は依頼人なので現場指揮官に声をかけた。
「見解は?」
「遭難者たちが魔物に襲われて死亡したのだとすれば何か遺留品を発見できているはずだ。何も痕跡がないということは、ここよりさらに先に進んだと考えられる。気になるのは、ここまでに何の魔物とも遭遇していないこと。魔物に遭わないからと単純に奥へ奥へ進んだだけならば良いが何か魔物に異変が起きていたせいで戻れなくなっている可能性がある」
「考えられる魔物がいない原因は?」
「さらに上位の魔物が現れてすべて食べられるか追われた場合。逆に群れをつくるためにどこかに集まっている可能性も考えられる」
「これ以上先に進むと上位魔物か四つ手熊の群れに遭う可能性があるということか?」
「そうだ」
「四つ手熊は基本的に単独行動をとると聞いたぞ」
「だから上位魔物が出現した可能性が高い。」
「今日参加しているメンバーでは勝てない相手か?」
「わからん。そこで依頼人の意向に従いたい」
俺は少し考えてから返答した。
「できれば何らかの遺留品は見つけたい。探れるものならば上位魔物の正体も探りたい」
「捜索続行だな?」
「そうだ」
捜索が再開された。




