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異世界に若返り転移したおっさん。ハズレ職と笑い者にされたので無双して見返します。  作者: 仁渓


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第27話 そういうの考えるのって苦手なんだよな

 探索者ギルドのギルドマスター、ケイトリンはハンドリーから領都騎士団練兵場での出来事の報告を受けて頭を抱えた。


 ケイトリンの対面のソファにハンドリーが座っている。


「お前はその説明を信じたのか?」


「信じるも何もないだろう。俺は寝てたんだ。どうにも信じられんがどこが嘘でなぜ嘘をつく必要があるのかもまるで分らん」


「お前が起きていた時の話すらが信じられんよ。百人もの騎士団員に腕相撲で勝ったのだろう? 強ければ勝てるというものではないぞ。底抜けの体力かよ。お前ならできるか?」


「できるか。腕相撲の強さが探索者としての強さの指標だという方便はあながち間違いじゃないかも知れんな。俺はギンに勝てる気がしない」


「ほぼ現役Bランク探索者様がそこまで言うかよ」


「Bランクってのは所詮常識の範囲内だからな。俺が知ってるAランクなんて化け物しかいなかった。Sランクがどんな存在なのかは想像もつかないよ。ギンは俺より化け物側に近い気がする。あんたなら俺より何倍か何十倍か経験豊富だろ。育った【支援魔法士】に会った経験だってありそうだ。ああ(・・)なるものなのか?」


「人を婆あ扱いするな。『石化』を使える【支援魔法士】の知人もいたが『ここぞ』だからとそんな魔力の暴走が起こる話は聞いた覚えがない。そもそもどれだけの魔力が必要なものか。騎士団側と口裏を合わせている可能性は?」


「そうだとしても実際に千人の石像が立っていた。千人を『石化』させる魔力がどれだけ必要で口裏を合わせてまで何のためにそんな真似をする必要がある?」


「ないな」


「だとすると事実なのだろう。俺はそう思うことにした」


「Bより上ならば最低Aしかないではないか。まあAランク探索者ともなればそれぐらいやれても驚かんが。本当にかよ?」


「この後、俺は同じ話を領主に報告しなければならないんだ。当の【支援魔法士】の裏付けをとるため領主から絶対に確認があるはずだ。援護を頼むぜ」


「確認されたところで登録三日目の新人だとしか答えられることなど何もないぞ。出身地も知らん。そもそもどこの出だ? そんな逸材、これまで無名であったわけがないだろう」


 その時、扉をノックする音がした。


「誰だい?」


「ギンだ」


 ケイトリンはハンドリーと顔を見合わせた。


「待ってたよ。お入り」


     ※※※※※


「随分な経験をしたそうだね」


 ギルドマスター室に入った俺に対して揶揄うような口調でケイトリンはそう言った。


 話を信じていないという口調ではない。単純に驚いているようだ。


 直接俺が説明をするよりも俺の話から勝手に自分の中での辻褄をうまく合わせた話をハンドリーがしてくれたほうが信憑性を感じるだろう。


 そう考えてハンドリーを先にギルドマスター室に行かせて俺は後からゆっくりと部屋にやって来たのだが効果は思ったとおりだったようだ。


 ソファ中央に座っていたハンドリーが右側にずれたので俺はハンドリーの左に座ってケイトリンと対面した。


「そんな魔力の暴走みたいな真似を起こしてよく魔力が持ったね?」


「ふらふらだよ。さっさと帰って寝たいところなんだがハンドリー一人に話をさせても悪いと思ったんで一応顔を出した。話は聞いたみたいだから、もう帰ってもいいか?」


「まあ待ちな。あんたをCランクに昇格させることにしたよ」


 十五歳で探索者になった連中が二十歳で才能のなさを痛感して引退をする時のランクが大体Dだ。Cランク以上は一角の探索者として扱われる。


「待て待て待て待て。薬草採取が俺のメインだからFじゃなきゃ困ると言わなかったか? Eならともかく、なぜいきなりC?」


「適当なところで負けて帰って来るかと思えば、あんた、騎士団員の選りすぐりを全員負かしてきたんだろ。それじゃ騎士団員は全員Fランク探索者以下という評価になるじゃないか。負けても騎士団が恥だと感じない程度にあんたのランクを上げておく必要があるんだよ。Bランクのハンドリーに勝つんだから本来は最低でもBだろう。残念ながら、あたしの権限ではCまでしか上げられないんでね。現在の肩書はCランクだけれどもBランク試験の順番を待っているだけで実質的にはBランク相当の実力者だ、というのをうちのギルドのあんたの公式評価とする。理解してくれ。誰も騎士団なんかと揉めたくないんだ」


 そう言われると理屈がわかるだけに大人としてはつらい。


「いや。でも、薬草採取の補助金頼みの生活だからさ」


 ノックの音がした。


 多分、ヘレンだろう。


「誰だい?」


「ヘレンです」


「丁度いい。入りな」


 扉を開けて部屋に入って来たヘレンは俺たちに向かってぺこりと一礼をした。

お盆を持っている。


 ヘレンは俺たちの近くまでやってくると、テーブルの上にお盆を置いた。


 お盆の上には俺の探索者タグと金貨一枚と小金貨五枚が載っていた。ハンドリーの取り分だ。数えていなかったが俺が腕相撲をした騎士団員は、きっかり百人であったらしい。


「ギンさんの探索者タグとハンドリー様の報酬をお持ちしました」


「俺?」とハンドリー。


「半分はあんたの取り分だ。あんたのお陰で得た仕事だ」


「とてもFランク探索者の一日の稼ぎじゃないね。補助金の心配なんか必要ないじゃないか」


 ケイトリンが皮肉を言った。


「Bだってそうそうないぞ。どうしても補助金が必要だというなら俺からの補助金だ。名目は後進指導費かな。鍛えてやってくれ」


 ハンドリーは盆の上の硬貨を手でスライドさせ俺の前に寄せた。後進の胃を鍛えろということだろうか?


「Fランク探索者がいくら薬草を採取したところでこんなにはならんぞ。金のある奴に補助金をあてにされては本当に補助が必要な人間の分け前が減る。諦めてくれ」


 ケイトリンがわかりきった事実を言った。ここ何日かで調子に乗って稼ぎ過ぎたとは俺も思っているんだ。欲をかき過ぎた。


「もう返さんぞ」


 俺はハンドリーに吐き捨てた。


「ヘレン。悪いんだがその金も俺の口座に入れてくれ」


「それは構いませんが、どうしたんです?」


 状況を分かっていないヘレンが首を傾げた。


 ケイトリンが追い打ちをかけた。


「それからギンの探索者ランクを上げて来てくれ。Cランクだ」


「C?」


「Cだ」


「よろこんで」


 ヘレンは持ってきたばかりのお盆を再び手にすると部屋を出て行った。


 心なしかステップが軽やかだ。


 担当探索者のランクがあがるのはギルドの担当者にとっても名誉であるらしい。


 今度、ギルド酒場じゃない、ちゃんとした店に行って飯でも奢ろう。


 いや。おっさんと飯に行くのは拷問か。何か贈り物のほうが無難だろうか。


 そういうの考えるのって苦手なんだよな。

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