表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/61

第19話 そういう落としどころはどうだろう?

 翌朝、探索者ギルドの入口の脇にヘレンが立っていた。


 まじか。御貴族様が早速何か動きを見せたのだろうか?


「あいつら、また来てるのか?」


「いえ。ハンドリー様がお待ちです」


 そっちだったか。


 俺はヘレンに建物の二階にあるギルドマスターの執務室に案内された。


 ヘレンが扉をノックした。


「どうぞ」


 中から女性の声がした。ややハスキーだが落ち着いた声だ。


「失礼します」


 扉を開けて中に入ったヘレンに続いて俺も部屋に入った。


 執務室の片隅にある来客用のソファに、こちらに背を向けてハンドリーが座り対面にエルフの女性が座っていた。彼女が声の主でありギルドマスターなのだろう。


 水色の長い髪をしているが髪から突き出ている右耳が長く先が尖っていた。


 左耳は見えない。


 顔の左半分、左耳から左目付近にかけて獣に爪で掻かれた様な大きな傷痕があり左目には黒い眼帯をつけていた。多分、怪我で失われていて左側は目も耳も存在しないのだろう。耳の場所には穴があるだけに違いない。


 長い髪で可能な限り顔の左半分を覆い隠すように意識された髪形だった。


 ヘレンと同じギルド支給の茶色い制服を着ていたがギルドマスター用のためにデザインは若干違っている。


 顔は物語にあるエルフ像のとおり神々しい程の美人だった。顔半分に広がる(いびつ)な傷痕のお陰で逆に美しさが際立っている印象だ。年齢はもちろん分からない。見た目は三十歳前後の女性だったが見た目どおりではないだろう。


 俺を前にしてギルドマスターとハンドリーが立ち上がった。


 ギルドマスターは俺よりも少し小柄なくらいだった。色々と慎ましい。


「いきなり呼んで悪かったね。ギルドマスターのケイトリンだ。」


「ギンだ」


 俺はエルフ女性に軽く挨拶をしてからハンドリーに顔を向けた。


 ハンドリーは自分の両膝に手をつき武骨な動きで深々と俺に頭を下げた。


「すまない。俺の監督不行き届きだ」


「いや。あんたは悪くないだろ。はねっかえりはどこにでもいるさ」


 ケイトリンとハンドリーが隣合って座り、その対面に俺とヘレンが隣合って座った。


 騎士団内に情報通がいて、ハンドリーがギルドで【支援魔法士】に腕をへし折られたという話が、ハンドリーが着任した時点で既に広まっていたそうだ。


 もともと、プライドの高い騎士団員の一部には探索者如きの指導など受けられるかという雰囲気があったらしい。魔物相手など普段の我々の力で充分だ、と。


 ハンドリーを魔物対策全般の指導員として私兵に雇うという話は領主本人の肝煎りだ。


 指導対象は魔物相手の前線に立つルンヘイム伯爵領の一般兵士がメインだが指揮官となる騎士団員も対象になるとされていた。


 そこに反発しているようだ。


 文句を直接、領主に言ってくれればいいのだが、言えない手前、ハンドリーの着任まではやむなしとしても瑕疵を見つけてさっさと追い出してしまえという動きがあった。


【支援魔法士】如きに腕相撲で負ける様な新指導役だが、その【支援魔法士】は騎士団の平騎士にすら腕相撲で負けましたよ。一般兵士の指導はともかく騎士団員の指導者としては見送りですね。


 そういうストーリーを腹に、はねっかえりの騎士団員が【支援魔法士】如きに声をかけたところ、あっさり返り討ちに合ったというわけだった。


 利き腕を潰された本人がすごすごと騎士団に戻って治療を受けたことから事件がハンドリーの耳にも届いた。


 慌てて今この場にいるというわけである。


 ハンドリーとしては、騎士団の事情にギンを巻き込んですまん、だそうだ。


「俺なんかより騎士団の中が騒ぎになってるんじゃないのか? どういう判断だ?」


 騎士に怪我をさせた【支援魔法士】は怪しからんとなっているのか、領主の指示に従わない騎士団員は怪しからんとなっているのか、いずれの判断かで俺の生活は変化する。


「表向きは無風だ。領主の指示に従わない騎士も【支援魔法士】に敗れる騎士もそもそも存在しない。実際は揉めてるのだろうが俺は領主の私兵でしかない。領都騎士団の内情まではわからんよ」


「昨夜の事件は領主の耳には入ってないと?」


「入れられないだろうな」


「あんたはどうするつもりだ?」


「職を辞そうかと思っている。この街で探索者に復帰とはいかないのでケイトリンにどこかのギルドに適当な勤め先はないかあたってもらうつもりもあって来た」


「領主は探索者活動に理解がある人じゃなかったか? ヘレンの話だと薬草採取に独自の補助金をつけてまで初心者探索者の育成に力を注ぐ人物だ。そもそもここまでの領都の発展はダンジョンと探索者の存在ゆえにだろ。騎士団はなぜそんなに探索者を嫌うんだ?」


「領主は強い探索者と珍しい探索者を好んで囲いたがるがその分、領都騎士団は縮小傾向だ。ないがしろにされていると感じているのだろう。領都騎士団と言えば聞こえはいいが実際は家を継げない貴族の子弟向けの閑職だ。魔物相手の最前線は探索者が挑むダンジョンの深層であり地方の街や村の城壁警備だ。領主としては領都騎士団を鍛えてダンジョンに潜れるようにしたがっているが放蕩息子ぞろいの騎士団員にそんな気概はない。あるのは妙なプライドだけだよ」


「だからといって領主肝煎りで雇ったあんたがすぐに辞めたらさすがに領主の耳に入る。調べれば顛末はすぐわかる。だから領都騎士団もあんたに辞められまではしたくないだろうな。元探索者如きにご指導さえされなければいいのなら、お互いに適当にやればいいじゃないか。他の私兵の元探索者さんたちはそうやってうまくやっているんだろ?」


「それは俺の性格が許さん」


 ハンドリーもなかなかなプライドの持ち主だ。


「じゃあ、あんたが辞めてもおかしくない適当な理由が必要だな。いっそ俺との腕相撲は騎士団員たちの実力試験のためだったとでもしたらどうだ? あんたに勝つ俺に腕相撲で勝てる様な騎士団員がいるならば指導役はその人間に任せれば済むのであんたとしては着任したばかりだが辞任するつもりだとか何とか。本当にそんな騎士団員が出てくればあんたは辞めりゃいいし、出て来なければぐずぐずぬかさずに指導に従えと鍛え上げる。俺は実力試験と称して騎士団員と腕相撲をする代わりに当然その分のお代を得る。そういう落としどころはどうだろう?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ