表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/61

第16話 とても高圧的です

 夕方、探索者ギルドに戻ると建物の外にヘレンが立っていて俺の帰りを待っていた。


 いくら久しぶりに担当する探索者が心配だとしてもさすがに過保護すぎるだろう。


 とはいえ、セクハラ親父としては嫌われてなくて良かったと思いたい。


 嫌われてないよな? 仕事上の義務感が恐ろしく強いだけだったりして。


「大収穫」


 俺は肩にかけていた棍をくるりと回すと背後にぶら下げていた一角兎(アルミラージ)をヘレンの前に突き出した。


「毛皮に傷をつけてないから高く買ってくれないかな?」


「どうされたんです?」


「木の上から散々魔法をかけて何とか眠らせた。その後、首をきゅっとね」


 予定していたストーリーを披露する。


「なるほどそんな手が」


 ヘレンは驚いたという顔を見せた。


「これからも使える手だと思う」


 ドヤ。俺は断言した。


「そんなことよりギンさんに領主様の騎士団が訊ねてきています」


 けれども、あっさりとスルー。


「騎士団? ていうとハンドリーの勤め先か?」


「はい」


「どんな話?」


「要件まではちょっと。ギンという【支援魔法士】を出せの一点張りです。ハンドリーさんからの話ではなさそうですね。探索からまだ戻っていないと伝えたところ戻るまで待つそうです」


「今は中に?」


「はい」


 面倒臭そうだ。


「後回しだな。そんなことより一角兎(アルミラージ)の解体を先に頼みたい。傷まない様に処理は早いほうがいいんだろ?」


「裏口から解体所に回りましょう」


 俺はヘレンの案内に従って建物の脇の細い路地を抜けて裏手に回った。


 探索者ギルドの裏側は壁面に大きなスライド式の扉がついていて開口部は縦横五メートルぐらいの大きさがあった。


 中は納品された魔物の解体所になっている。大きな魔物も丸ごと納品できるように大きな開口部になっていた。


 大物を仕留めた探索者は表玄関ではなく裏の道路から、直接、解体所へ持ち込むのだ。


 ヘレンが開口部から中に入っていく。


 足元は水で濡れていた。


 解体した魔物の血で汚れるため定期的に水魔法で洗浄をして血が混じった水は排水溝から下水道に流れて落ちるように処理がされている。


 とはいえ、血と臓物(ぞうもつ)の臭いは避けられない。室内は悪環境だ。


「査定をお願いします」


 ヘレンは一人の男に声をかけた。四十代後半と見た。前世の俺よりは若い。


 魚市場のおじさんが身に着けていそうな体の前面を足元まで覆うエプロンをしている。足には膝上まである長靴を履いていた。どちらの素材もゴムではなくて何らかの防水性を持った生物の皮であるようだ。


 俺は男の前にあるテーブルに一角兎(アルミラージ)の死体を載せた。


「傷なし火傷なしだ。高く買ってくれ」


 男は兎の全身を軽く確認した後、首周りを手で触れながら、


「魔法で凍死させてから解凍したものじゃないな? 生きたまま首を絞めている。罠か?」


「残念。木の上からかかるまで『眠り』をかけ続けた。その後ロープできゅっと」


 俺は練り上げていたストーリーを改めて説明した。


「『眠り』の魔法。『骨折り』とかいう【支援魔法士】はあんたか?」


「そう呼ばれているらしいな。誰かに勝手につけられた」


「ふむ」


 男は腕を組んで何か考える仕草をした。職人という言葉が似合う風貌だ。腕もごつりと太い。後でヘレンに確認したところ、探索者ギルドのサブマスターだった。サブマスター兼解体所長だ。


「毛皮が燃えていない点は高評価だ。反撃の隙を与えぬ様に普通は過剰な程の攻撃魔法で相手を焼き尽くそうとするからな。当然、毛皮など駄目になる」


 俺は相手の指摘に頷いた。


「だが、血抜きをせず内臓もそのままにしている点はマイナスだ。肉の質が落ちる」


「処理方法がわからん。初心者探索者向けの解体講習とかはないのか?」


 俺はヘレンに眼をやった。


「解体所の都合次第です」とヘレン。


「教えたら定期的に持ち込めるか?」


 サブマスは俺に訊いてきた。


「定期的はどうかな? 一角兎(アルミラージ)に限らず自分の安全を確保しつつ魔力が尽きるまでにうまく『眠り』がかかるか次第だから。どれくらいの頻度が希望だ?」


 安全地帯から失敗ありきで何度も魔法をかけているという根本のストーリーは覆さない。


「最低でも週一回、できれば二回だな。この水準の一角兎(アルミラージ)ならば銀貨二枚だそう。下処理済みならば三枚出す」


 薬草採取と合わせれば一日当たりの稼ぎは銀貨四枚だ。三日に一日働くとしても銀貨一枚が手元に残る。逆に言えば銀貨一枚しか残らない。


 Fランク探索者としては破格の稼ぎかもしれないが、日雇い労働者の域を出ない。ブラック従業員の臭いがする。


 個人的には、あまり約束をしてしまって行動を制限されたくない。週二回も一角兎(アルミラージ)を納品しないといけないのだとしたら長期の仕事は受けられなくなる。まるでギルドの下請け人生だ。やりたいときにやりたいことだけをやる暮らしが今世の目標だ。あまりうまみが感じられない。


「それだと拘束が厳しいな。特別な色は付けなくていいから獲れたら持ってくるのでその時の適正価格で買ってくれ」


「仕方ないな」


「だとしても下処理は学びたい。納品される側もそのほうが質はよくなるのだろ」


「確かにな。これからこいつを捌くところを見ていくか?」


「そうこなくちゃ」


「ギンさん、騎士団がお待ちです」


 ヘレンに釘を刺された。


 そうだった。


「ハンドリーからの話じゃなさそうんだよな?」


「恐らく。『オーガキング』とは系統が違いそうな方たちでした」


「もっとお上品ってこと?」


「ええ。とても高飛車で高圧的です」


 ヘレンが辛辣だ。ますます面倒臭い。


「仕方ないからさっさと済ますか。ヘレンは先にこちらから入って戻ってて。俺は一度外に出てから表に回ってギルドに入る」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ