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第1話 悠久の時が過ぎ


 自然に侵食された建造物群。

 崩れ落ちた建物の隙間から生い茂る木々。

 障害物から侵入者をうかがう野生に還った動物たち。

 アスファルトを食い破った雑草だらけの道を幾つもの影が走る。


 年齢は十八。ボリュームのある髪型。

 緋色に黒や白が混ざった、()()()()()()()()()()()()()

 蛍光色のパーカーに動きやすいショートパンツ姿。

 いにしえの時代にはサイバーパンクと呼ばれたファションに身を包んだ女性が、()()()()に放棄された廃都市を駆けていた。

 彼女の【能力】で操る傀儡くぐつたちとともに。


 周囲をせわしなく見渡し、追従する傀儡くぐつたちを使い廃墟を探らせる。

 しばらくして()()を見失った事を認め、苛立つように舌打ちをした。



「チッ。こちらマキナ。対象を見失ったよ。そっちになにか映ってない」



 マキナと名乗った女性は虚空に問いかける。そこには誰もいない。

 通信機器のたぐいも持っていない。

 しかし、返答はあった。


『待ってくれ。え~と、これがこうで、こうして~――――』


『先輩おせえっす! 早くしないと対象カネが逃げるっす!』


『仕方ねえだろ、普段やらねえ使い方してんだから! オッサンいじめんな! 文句あんならお前がやってみろ、新人ペーペー!』


『残念っすね! 自分は通信を繋ぐ大事な役割があるっす! なんで先輩が頑張るしかねえっす!』


『このッ。少しは手伝いやがれ!』


 マキナの周りをチカチカ光る光源が飛び回り、そこから音声が聞こえてくる。

 急を要する事態に言い争う通信相手に溜息を吐く。


「はぁ~。急いでんだから喧嘩しない。バンさんゆっくりでいいから、そのままドローンのカメラで捜索お願い。ツヅルはバンさんを煽らない。彼がいなくなったらいよいよ()()()()()は終わるからね?」


『わりい、()()どの。こんな時に馬鹿に構って。あと、安心しな。俺はいなくなるつもりはねえから!』


『うっす、すんません団長さん。こんな時に先輩をからかって。TPOはわきまえるべきっすね!』


『てめえはオレで遊ぶなッ』


『馬鹿って誰のことっす? 教えて欲しいっすね~?』


「はぁ~~~、もうッ。仲良くしてよね!」


 バンとツヅルと呼んだ通信相手に呆れながらも彼女は鋭く周囲を観察する。

 少しでも標的の痕跡を見つけようと真剣だ。

 その表情には余裕がない。それもそのはず彼女たちは()()()()

 目的を達成しなければ『大事な場所』を奪われる。



 そんな状況が彼女の視野を狭くしていた。



『団長どの。そこから二時の方角、廃ビルの先に破壊された警備ドローンを発見した! まだ新しい破壊跡だ!』


「ッ!? ありがと、バンさん。すぐいく!」


『待てッ。なにかおかしい。こんなとこに――――』


『はやっ!? 団長さん!通信のリンクが切れ――――』


 報告を聞いたマキナは制止の声を振り切り、すぐ行動に移す。

 周囲の光源を置き去りにして疾風の如く駆けだした。

 目の前には崩れてなお高くそびえ立つ建物の残骸。


 彼女は速度を落とすことなく建物に向かい――――跳んだ。


 所々に突出した壁を足場にして駆け上がっていく。

 瞬く間に頂点に到達。勢いそのままに頂点から向こう側に飛び降りる。

 常人では到底耐えられない高さからの落下だった。


 しかし、彼女は常人ではない。時代が生み出した超人。

 異界から溢れた物質に適応した新しい人類。

 様々な力を有した、世界総人口の二割しかいない希少な存在。


稀人マレビト』。


 彼女はそのひとりだ。


 派手な音ともに地面に着地し、足元はヒビ割れどもその身に傷は無し。

 何事もなかったように周りを見渡す。

 遅れて彼女の傀儡たちが到着した。

 だが、まだ光源は追いついていない。

 彼女はそれを待つつもりだったが――――標的が見つかった。


 破壊された警備ドローンが散乱した先に小汚い中年の男が布でくるまれた()()()()と威力の高い大型の銃器を持ち、マキナを睨みつけていた。

 後ろは黒い壁で塞がれており、退路はない。

 男にその壁を登るだけの身体能力はなかった。

 傀儡を展開して万が一にも逃がさないように包囲する。


「ほんっと手間取らせてくれたよね」


「ぐっ……う」


「誇っていいよ。『常人ツネビト』が『稀人』の包囲網を突破して逃げたんだから。でも、もう終わり。その手に持ってる荷物を渡して。それを依頼人に返さないといけないんだから」


「――――だ」


「ん? なんて?」


「嫌だッ」


 急な大音声と鬼気迫る形相にマキナはわずかにひるむ。

 男の目は血走り、興奮しているのか荒い息を吐いている。


「フーッ、フーッ。『常人』をなめやがってッ!傲慢な『稀人』がッ。だけどなあ、()()があれば俺だってなれんだよ! 『稀人』に!」


「別に侮ってるわけじゃないよ。あと、それがなにか分かってるの? そんな力があるわけないって。それは――――」


「閉じた星幽アストラル界の【境界ボーダー】をこじ開ける『高純度アストラル爆弾』だろッ。馬鹿にしてんのかッ」


「…………もしかしておじさん。星幽アストラル界に行けば誰でも『稀人』になれると思ってる人? そんなわけないじゃん。『常人』がそんなことしたら()()()()でぽっくり逝っちゃうよ。やめときなって。あとね、()()()()を考えて使わないとただの爆弾だよ。それ」


「騙されるかあッ。そうやって稀人おまえらは力を独占してきたんだろッ。常人おれらが力を得ようとすれば邪魔しやがって!!!」


「ダメだこりゃ。ごめんね、話を聞いてくれないならちょっと手荒になるよ」



「俺はちからを手に入れんだよおおおおおおおおおおぉッ」



 男は大型の銃器を構えて引き金を引いた――――黒い壁に向かって。

 壁に穴が開き、その中に起動した爆弾を投げ入れた。


「ちょっ!?」


 自分に銃口を向けられると思っていたマキナは呆気にとられ、回避の姿勢を取ったまま、その行動を見過ごしてしまった。それが致命的なミスになってしまう。


 油断があった。その程度の銃器で傷つけるなんて叶わないと。

 慢心があった。男がどんなアクションを取ろうと制圧できるだろうと。

 注意不足だった。考えればわかったはずだ。こんな放棄された街に警備ドローンが配備されていた理由を。

 確認不足だった。傀儡で周囲を確認すればわかったはずだ。黒い壁が壁じゃなく中のもの封じる巨大な檻であったことを。


 焦りが思考を鈍らせ、視野を狭くしていた。

 それが通常はしない失敗を引き起こす。



「さあ、俺を連れて行けッ。全能の力が満ちる星の世界へッ」



 男の言葉に言いようがない危険をマキナは感じ、身構える。

 遠くから声が聞こえた。


『――――長――ろ』


 通信用の光源が追いついてきた。

 彼女の後ろからなにかを叫んでいる。

 しかし、背後を向けない。

 前方から危険な気配が膨れ上がり目を離せない。


 気配が最高潮に達して――――――――




『団長ッ。逃げろおおおおおおおおッ!!!』




 閃光が彼女の視界を真っ白に塗りつぶした。



プロローグから百年後。

物語は動き始めます。

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