6:ホラー寄りのヒューマンドラマ『ビール』
「冷やしといて」
問答無用で押し付けるようにして渡されたビニール袋。
半透明というよりは白色に近い。
袋の底はひんやりと冷たく、また、手首がしなるくらいには重さがあった。
上から中身を覗くと、缶ビールが二本入っていた。
私はアルコールは飲まないから、その二本は二本ともが彼のもの。
「ビール出して」
首からタオルをかけ、先程よりも肌色の面積を増した彼が戻ってきた。
水滴がぽたぽたと床に垂れている。
「あん? なんじゃこりゃ」
缶ビールをグラスに移し、テーブルに運んだのだが、何かがお気に召さなかったらしい。
普段から不機嫌でいることが多い彼だが、声が一段も二段も、いつもより低く聞こえた。
ツマミだろうか?と、慌てて取りに行こうと動いたタイミングで、頭と顔に衝撃があった。
上からビールを浴びせられ、氷が脳天にも鼻にもゴロゴロ降ってきて、ついでにグラスもゴンッと落ちてきた。
頭でのワンクッションのお陰か、幸いグラスは割れていない。
「ビールに氷入れて出す馬鹿がどこにいる」
ここにいる。
そんなの、私はアルコールを飲まないのだから、私は知らない。
「常識だろうが! クソがっ。そこ、片付けとけ」
床に横倒しになっていた、濡れたグラスを手に取る。
ゴンッと彼の頭に投げ付けた。
度重なるの衝撃に耐えきれず、グラスが割れた。
床のビールに、ボタボタと赤が混ざる。
顔から、彼が床に崩れ落ちた。
余程ビールが好きらしい。
きっと床を舐めたいのだろう。
グラスを投げることは常識なのだと知り、私はまた一つ賢くなった。