3:現実恋愛『人事異動』
溜まるストレスを吐き出すべくイライラを書き始め、一時保存して書いて、別のことをして、また書いて、一時保存して、を繰り返しながら、作者:しいな ここみ 様 のジャンル:現実恋愛『卒業式』
https://ncode.syosetu.com/n2977ir/ がめっちゃ素敵で、感想とレビューを書いて、その後またこのストレス発散作品の続きを書いたら、自然と現実恋愛にシフトした……。
でも前半は完全にリアルだから、冷静に考えると、妄想が痛い……。
心、削れる、年度末。
そんなキャッチフレーズみたいな言葉が浮かんで、心はゴリゴリ石臼で挽くように削れ、粉となって事務所フロアの埃混じりの空気に溶け込み消える。
3月最後の日、年度末。
4月1日からの人事異動に合わせ、定時を迎えるとすぐ、机を入れ換えたりパソコンを入れ換えたり机の中身を入れ換えたりと、フロア全体の空気の悪さは度合いを増す。
男性社員が二人掛かりで机を持ち上げ移動させ、その周囲を、箒や塵取り、雑巾といった小道具を手に、まだ入社年数浅く可愛らしい女性社員達が親を追うヒヨコのようにちょこまかと細やかに動く。
男女平等と、適材適所、分相応は相容れない。
「パソコンがつかない」「接続が」「ケーブルが」と理系に強い男性陣のなんやかんや言い合う声を東から西に聞き流しながら、自分はただ黙々と、1つ隣の席に引出しの中身だけをごそっと移動できるように準備する。
ハンドクリーム、メモ帳、リップクリーム、ガチャ玉、ガチャック、クリップ、電卓、ミラー、絆創膏、ホチキス、2穴パンチ、ペン、物差し、出張土産に貰ったご当地煎餅、その他諸々。
男性陣の声はあれやこれやと賑やかに続き、フレッシュで可愛い女性陣はその間も細やかに働く。
皆が次の段階に移るまで、さて自分はどうしようかと、とりあえず、一呼吸して毒素を吐き出す。
長細いインスタントのスティックの袋を開け、マグに粉を移しポットを押……そうとしたら、蓋が少し開いていて、湯は既に捨てられ、中身は空っぽだった。
捨てる?でも貧乏性の自分。捨てるのは……と思うから、仕方がないのでマドラー兼スプーンで掬って食べてみる。
ジャリジャリ、ジャリジャリ。
ジャリジャリ、ジャリジャリ。
砂じゃない、でも砂を噛むような食感と音。
これは砂状に砕けた飴だと自分に言いきかせ、食べ尽くす。
削れた心。ポットの中も、マグの底も、私の表面も心も、全部空っぽで、胃袋に砂。
でも仕事だけは積み重なって、4月からは新しい人がやって来る。
やっていけるだろうか、やるしかないのだけれど、やれるだろうか、やるしかないのだけれど。
不安、焦燥、プレッシャー。
しんどいなぁ、あぁ、しんどいなぁと、心が叫ぶ。
目の前に落とされる飴玉、一口大のチョコレート。
ぽんっ、と頭に乗っかる手。
「お前、気負い過ぎ。顔が死んでるぞ。っつか、何でこの煎餅まだ取ってんだ。湿気るからさっさと食えよ」
頭から離れた手が煎餅を持ち上げる。
顔は見なくても分かる、この手と声は先輩。
「先輩が居なくなるから寂しいんですよ」
「そんな寂しいならマニュアルと引継ぎ書でも読め。そんで、何か困ったら電話して来いよ。内線でも、スマホでも」
雑な喋り方に反し、周りをよく見ていて、ちゃんと気配りの出来る人。
あぁ、やっぱり好きだな、と思う。
でも居なくなる人。
「逃げてく癖に」
「別に逃げねぇよ、お前からは」
逃げないで、そばにいて、好きだから、離れていかないで。
「電話、掛けますから」
「おう、掛けて来い。なんなら毎日でも。……スマホな」
掛けてやる。
毎日でも掛けてやる、
言わせてやる。
寂しいって。
好きだから……好きだと言ってほしいから。
この作品を書いていて、「物差し」の漢字が「差し」か「指し」か念のため確認しようとネット検索して、「物差し」と「定規」の定義の違いを知りました。厳密に言うならここで登場するのは多分「定規」が正しくて、でも、語感優先で「物差し」としています。