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海鳴りのシャーマン  作者: 國島雪世
Ⅰ:セルトニア国超規模失踪事件
8/19

1-8


 それからユギル達は、数日かけて国中を回ったが結局誰も見つけられなかった。変わった事と言えば、一回倉庫で小規模な火災に出くわして、二人と一匹でどうにかこうにか鎮火したくらいだった。





 話は変わるが、セルトニアは資源の限られた島であり、足りない物品を貿易で入手する小国である。大陸の湾岸都市ヨードヴォーから観光客や交易品を乗せた船がやってくるのは五日毎。天候にも左右されるものの今の時期波が荒れる事はそうなかった。


 よって島に来たばかりだと言っていた観光客二人を、ユギルがボートに乗せてから五日後。突き抜けるような青空の下、島の玄関口となる港でユギル達はヨードヴォーの船が来るのを待っていた。

 島から人が消えて五日後でもあった。

 ここ数日どこに行っても誰もおらず焦りきり、碌に寝ないユギルを見かねてエドウィンが他国へ救援を求めるよう提案したのである。役所も警察ももぬけの殻なのだ。分かる限り島に一人きりの人間になってしまったユギルはその提案を呑み、やっと一日泥のように眠って今日に備えたのだった。


 国で一番綺麗に道が作ってある港は、北西が海に面した入り江である。入国手続き及び他国の公人や貿易商への応対をするための大きな建物が正面南東側にあり、倉庫やドックは東側に並んでいた。港の南側には案内所や食堂、雑貨屋等が並ぶ。ユギル達は食堂前のベンチに並んで座っていた。


「その交易してる都市の……ヨードヴォーだっけ、そこの船の人達は信用できるの?」

「何度か話した事あるけど、気のいいおっちゃん達だぜ」


 精霊の少女にエドウィンが答えた。少女は更に港を見渡しながら訊ねる。


「ヨードヴォーの船はセルトニアの船と似たような見た目なの? どのくらい近づいたら見えるかしら」

「デカいからかなり遠くからでも目立つぞ。俺達の船は漁をするだけの帆船だけど、あっちの船は沢山積み荷や人を乗せられるようになってる。だからここの港くらいしか停める場所ないし」


 その問いには長い桟橋を指さしながらユギルが答えた。

 港には桟橋がいくつもあり、短い物にはセルトニアの漁船が停められていたが、石造りの長い桟橋二本は大きな船を停めるため空けられていた。

 少女の姿をした精霊は、その桟橋に停められるに相応しい大きさの船を想像した。それは目に映るセルトニアの漁船をそのまま拡大したものだったが、じっと木造の漁船を見つめる少女にエドウィンが笑って補足した。


「向こうの船は蒸気船だからなあ。嬢ちゃんが見たらきっとびっくりするぜ」

「蒸気船?」

「そうとも。石炭で動く船だ」


 セルトニアには木造のボートや帆船しかないが、大陸の列強国では半世紀程前から蒸気船が使われていた。黒煙を吐きながら風を無視して進む金属製の大型船を初めて見た衝撃は凄まじいものだった、とユギルは老人達に聞いたことがあった。

 安定した航行が可能な大型の蒸気船による交易が始まったことで、セルトニアが急速に観光国として開発が進んだ経緯があった。

 人類文明の記憶が千年前で止まっている精霊に蒸気船の説明をユギルとエドウィンがしていると、黒い点のような影が北西の海に現れた。


「もしかしてあれかしら?」

「ああ、予定通り来たみたい……だ?」


 首を傾げたユギルの眼には、黒い点が二つ映っていた。


「……二隻ないか?」

「ええ? ユギルが見間違いなんて珍しいな。いつも一隻だろ?」

「……私にも二隻あるように見えるけれど」


 そう言っている間にも影はどんどん大きくなる。いつもの船に案内されるように、もう一隻、斜め後ろに続いているのがエドウィンの目にも見えるようになった。


「本当だな? なんでこんな時に限っていつもと違う船も来るんだろうな?」


 エドウィンも首を傾げた。


「こんな時だからでしょう。あの船に乗ってるのはどんな人達なのかしらね?」


 少女精霊が口端で笑ってそう言った。目は笑っていない。

 楽観視するのは危険であると、流石にユギルも分かっていた。二人と一匹は固唾を呑んで船が近づいて来るのを暫し見つめる。


「いや、デカくね?」


 やがてユギルがぽかりと口を開けてそう言った。

 ユギルにとって一番大きな船は、ヨードヴォーの交易船だった。しかしはっきり見えて来た二隻目の船は、その倍くらいの横幅があった。当然長さもその幅に見合った物である事が予想出来た。


 二隻目の船は、近づけば近づく程その巨大さと物々しさをひしひしとユギル達に伝えていた。


「変な部品がいくつも付いてるわね。ユギル、あれはなに?」

「知らねえよ! あんなの初めて見たぞ」


 それは所謂主砲塔だったのだが、ユギルに軍船の知識はなかった。ただ船から不吉な気配を感じ取ったユギルは、二隻の船が港に着く頃には神経を尖らせていた。


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