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海鳴りのシャーマン  作者: 國島雪世
Ⅱ:冬の邂逅
18/19

2-3


「であるからして、連邦の同盟国の中でもアイリアの技術力は他の列強からも警戒されており、連邦との共同研究も多く行なっているが故……」



「ねむ……」

「…………」


 ボソリと呟くユギルの隣で、ノラは熱心にノートを取っていた。


 息継ぎのタイミングが見えない程につらつらと喋り続ける教師が行なっているのは地理の授業である。

 教室内いる二十余名程の生徒の中に、ユギルと精霊のノラが混ざって座っていた。

 長年眠りについていたノラが社会常識を得る為、自ら聴講を希望したのだ。『社会常識気にする精霊って……あぁいやいや、座席余ってるし良いんじゃない?』とウィリアムからあっさり許可が降りた為登校初日からユギルと並んで講義を受けていた。


「自然界や我々の肉体に宿ったマナを科学技術と組み合わせ利用するマナ技術……近年新たに見出された分野であるが、その先駆けとなったのがアイリアの研究者達だ。ここでは割愛するが、教科書の表に載ってる研究者と対応する研究内容は試験に出すからよく覚えておくように」


 そこで丁度チャイムが鳴り、手短に挨拶をして教師は出て行った。

 ユギルは捲り損なっていた教科書のページをぱらりと進め、件の表とやらを確かめる。


(…………多くね? 覚えられる気しねえ)


 十名程の代表研究者の名前と研究内容、実績が小さな字で無理矢理一ページにまとめられていた。

 ユギルが隣のノラを見ると、真剣な顔で腕組みをしながら表と睨めっこしている。


「なんてこと……」

「だよな? 多いよなこれ」

「そうね。マナの貯蓄、特殊モーターの開発、それによる物理的なエネルギーへの変換と利用。これだけ革新的な発明を行った人間が全て一つの国に集まってるなんて……そもそも発明の内容がとんでもないわよね、今更だけど」


(違う、そうじゃない)


 微妙な顔のユギルには目もくれず、ノラは表をじっと見た後、教科書のページを行ったり来たりしながら読み込んでいた。

 ノラは大体の授業で『五百年も前にこの大国が滅んでたなんて!』だの『そもそも今って文学作品を書く専門の職業があるの? ふうん、小説家?』だの千年分のジェネレーションギャップによる新鮮な驚きを周りに見せている。

 座学自体苦手なユギルより余程熱心に授業を受けていると言えた。


 ユギルが周りを見渡すと、暗記項目の多さにゲンナリした様子の生徒が多く、多少ユギルはホッとした。


 教室内の多くは連邦から集められたシャーマンの子供達である。一部が友好国から留学して来たシャーマンの子供だ。ユギルも一応この枠に入っている。

 そしてたまにいるのが、


「ユギル、授業大丈夫そ?」

「クラリッサ?」

「アイリアの事ならいくらでも解説できるから困ったら言ってね。……まあ、シャーマンの事は無理だけど!」


 そもそもシャーマンでない生徒である。

 今ユギルに話しかけたのは長身の少女であった。名をクラリッサ・へレーズ・ユグドサイリア、ユギルより一歳年上である。

 アイリア出身の留学生であるクラリッサは、マナ技術の研究者の卵としてバレンギーナにやって来ていた。

 成人した研究者が共同開発の為に招かれるのではなく、学生の身分でバレンギーナに留学と言う形を取るのは珍しかった。


「クラリッサは今日の範囲全部頭に入ってるのか?」

「まあ、アイリアの事だったからね。流石に連邦内の地理とかはユギルとそう変わらないけど」

「クラリッサ! ここちょっと聞いても良いかしら?」


 教科書から顔を上げたノラがクラリッサを呼ぶ。

 肩までつく金茶色のポニーテールを揺らしながらクラリッサがノラの方を向いた。ノラより肉付き良く、豊満な肢体をノラに寄せて、クラリッサは教科書を覗き込む。

 熱心なノラに、自分の国の事を聞かれるのが嬉しいのかクラリッサはニコニコと質問に答えて行っていた。


「……」


 ユギルはその様子を何とはなしに眺める。にゅっとその頭からニヤついたヤドカリが飛び出した。


「どうした、寂しいのか?」

「うるせえよ」


 エドウィンにユギルが低い声で答える。授業中すっかりユギルの中で寝こけていたエドウィンはいつの間にか起きてユギル達のやりとりを見ていたらしい。

 体内にエドウィンをそのままギリギリと押し込んで、ユギルはため息を吐いた。

 

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