三十二話 日本奇譚神話、子作りのイザナギノミコトとイザナミノミコト
イザナギノミコトとイザナミノミコトは、高天原の大神様にこう言われたり。
……「よいか、二人して子をたくさんなして、それを島とし国を作れよし」と。
二人は地上に降りたのち、天之御柱という大柱の前で、互いの身に思い致す。
イザナギノミコト「そなたの身は、いかように作られておるのか知りとうて」
イザナミノミコト「わらわには、なり合わざる所、一つありまする」
イザナギノミコト「よには、ありあまれる所、一つありて、その……」
「これにてさし塞ぎ、国土を生みなさむと思う、これいかに」
イザナミノミコト「どうか、ぜひに、わらわの壺所にくださりませぬか」
イザナギノミコト「あいわかり申した。なれど、矢のごとくでなければ、のう」
イザナミノミコト「おまかせあれ、わらわの誘いのままにまかせるやよし」
「あおむけに寝てくだされ、矢にまたがりて踊ってみせまする」
国造りを命じた大神様は驚いた。イザナミノミコトはこうも欲ありか。
連日連夜の乱舞、誘っては男神が参るまで、また誘い、矢が小さくなるまで。
こんな事ばかりやってるから、すぐに子が出来た。それが、不具の子を授かる。
名を水蛭子と付ける。ヒルを想起さす。早々に葦の小舟に入れて流し捨てるなり。
女神は悲しむも、子欲しさで男神の上で、よりいっそうの乱舞の嵐をと。
また、子が出来もうした。ややもややも、またもである。続けざまに不出来の子が。
先の子のように、葦の小舟にて別れを告げる。アワの様な子か、淡島と言う。
これには二人して首をたれる、どうしてこうなのかと思い悩むなり。
国造りを命じて来た大神様に聞いて来ようぞと、イザナギノミコトは赴くなり。
大神様いわく……「よいか、女神に誘われるがままではいかん。それゆえじゃ」
イザナギノミコトは思い至った。(よが上になりて、女神が下にての事か)
とくと、わかり申した。あらん限りの力でもって挑んでこそ、ええんやと。
イザナギノミコト「女神様や、これからは、よが上になりてするや良しとのこと」
「あの踊りはなしになりて、こらえてはくれまいか」
イザナミノミコト「さようでしたか。好きにしてくだされ。ええ子授けてなも」
「思いっ切りとたのみまする。わらわの壺所、塞いでたもれ」
それからと言うものである。イザナギノミコトは励んだ。どんどこと、ええ子が。
淡路島、四国、隠岐島、九州、壱岐島、対馬、佐渡島、本州、続く六つ島をと。
立て続けに出来申した。イザナミノミコトは健やかに育ってく子らに、目を細めた。




