三十話 女ヤクザ組長雪江の、弟子しごき
昭和三十年代の初めったら、まだ売春防止法が出来よる前や。
巷の赤線なんざ大流行り、にいちゃんあんちゃんはここで皮剥けになる。
さすがわ政府公認、性病検査はまめにしよる。ヤクザも出んから安心でな。
かたや、青線ちゅんがある。もぐりの訳あり女がたんと巣くっておる。
検査のけの字もねえ。入れ喰いのまんま、そのまんまや。まず、梅の毒にな。
でも青線よさもある、安いわ無茶できるわ打ち放題や。ヤクザが仕切っとる。
ここ神田のガード下に、「はりまや」ゆう三畳が四つのヤリ小屋がある。
宿の名のように、土佐から出よった姉御が組長さんでやっとんやわ。
もちろんのこと、裏には龍入りの若頭が付いとる。のれん分けだわな。
名を雪江ゆう三十路の黒ヤケでの、この女、猫にも黒ヒョウにもなる。
若頭の布団のなかじゃサカリ猫、弟子の布団のなかではのう、暴れまくるんや。
こんな組に入った弟子は大変でよ、毎夜のしごきの嵐や……
雪江姐「おいや、こんど入ったんはおまんやな、名言うてみい?」
銀次 「本名は堪忍してくだされ、これからは銀次ってかわいがってくだせい」
雪江姐「そーかい、わかったき、ええか、組んために気張れいな」
銀次 「ほいっ、何でもやりよるし、姉御ん為やったら、この玉ささげます」
雪江姐「おう、そいでいいきな。アテは弟子を食わせたるんや、逆もありやで」
「ええか、おまんらの玉袋はアテが預かる、銭みてえに溜め込むなや」
「小銭チャラチャラ残すような事すんな、今日の分はみんな使え、なっ」
銀次 「姉御、空砲なんまでゆるしてくんねんですね。これも修行ですな」
雪江姐「まずは味見かやらき、男はみんな形違いよるきな、喰いあわせや」
「アテんのに叶うんか叶わんか、ためそうな。ええもんやったええな」
銀次 「オラはここ来るまで、闇市の女たんと喰って来た。技もあるて」
「姉御んため、組んために気張りますんで、今後よろしくたのんます」
雪江姐「わかったきな、ほな、今日の夜、アテの布団なかもぐってきいや」
「あのな、今夜はおまんをためすんや。若頭はんには、我慢してもらう」
「そん分、ちゃんとやらんかったら、へし折るきな。じゃ、後で来い」
銀次 「へいっ……」
さあ、もうわかっておるわ。新入り銀次の技なんて知れておる。
雪江姐なんて、せんべい布団の上で喰らいまくって来た。骨がきしむほどにな。
そうこうしているうちに、今度は掛布団になりだした。男まさりにのう。
雪江姐「早よこんか、アテあっためてみい、かかってきいや」
「ええか、こらえ切れんようなったら、ヘソん穴に力入れるんやで」
銀次 「姉御、姉御からお願いしますて、よう、勝手がわからんので」
雪江姐「しょうがなか、闇市ん女ばかりやけんな。女の底無し、教えるぜよ」
「横んなれ、アテの極楽づらたんと拝むんやで、そいたらゆるしたるき」
「わかったがや、こらー、いくでーー」
銀ちゃんは、翌朝、尻が痛くなってもうた。敷布団にされまくったんや。
乱れ牡丹は、ようやく寝入っとる。今のうちに逃げ出そうとな。
黒ヤケ姐が起きませんようにと、そっと抜けた。寝顔は、それは綺麗だった。
ヤクザ修行の、これは始まりに過ぎなかった。




