二十九話 上司の古ミカン支部長への、部下ピロ子の困りごと
私が仕事で立ち寄る、ある職場のことである。
そこは役所系で旧態依然の所。民間と違って融通か効かない。堅物多し。
親玉である支部長が牛耳っている。この方は一風変わったクセがある。
部下からもらったミカンを食べずに、自分の机の上にいつまでも放置している。
かなり経つので、もう干からびている、カビも生えかけているのに、まったく。
これは、くれた人への当て擦りなのであろうか、ある種のパワハラやもしれん。
何を考えているんだろうか、この話は私の内通者であるピロ子から聞いた。
この際は、職場の方々には、あだ名で出て来てもらおう。
古ミカン支部長の右腕、ムラサキ頭さん。この方は不思議な事に紫に染めている。
ムラサキ頭さんの同僚の、のらくろさん。漫画「のらくろ」にそっくりなお人好し。
新しく入って来た役人堅気の、カチコチさん。この方はパソコンが苦手で指一本。
女性では、ピロ子の天敵のミーちゃん。意地の悪そうなネコ顔をしている。
そして私の内通者であるピロ子。パソコンが得意、ブラインドタッチが早い。
私には、この中での古ミカン支部長と、ピロ子とのやり取りが浮かんで来る。
何故だかと言うと、私とピロ子とは出来ているからである。こんな感じで……
古ミカン支部長「あのー、ピロ子さんねえ、机のミカンの事、気にしないでね」
「実はね、深い意味があるのです。あれは作戦なんです」
「あのミカンを持って来た、そう、のらくろさんが嫌いなんです」
「どうして嫌いかと言うと、のらりくらりとやってるのでね」
ピロ子 「それってパワハラですわよ。食べないんなら捨てればいいのに」
「いつまでも、もう。カビで肺炎になったらどうしてくれますか」
古ミカン支部長「私の机の隅なんだから、まずは、私がなってからです。ご安心を」
「そんな事よりも、あのミーちゃんと喧嘩してくれませんか」
「どうも、この職場には活気がない、面白みのない所ですからな」
ピロ子 「そんな、変ネコのミーちゃんには、やり繰りで頭に来ますけど」
「あんなの大した事じゃない。前に車で途中まで送ってくれたし」
古ミカン支部長「じゃ、ムラサキ頭さん、どうです。あの紫頭、気色悪いでしょ?」
ピロ子 「ええ、それはそうです。一日でも早く黒色か白髪頭でもいいので」
「初め見た時には、目が点になりました。でも、もう慣れましたわ」
古ミカン支部長「そうですか。じゃ、のらくろ野郎さんと喧嘩出来ませんか?」
ピロ子 「何を言ってるんですか、あの人は体が良くないのに出て来ている」
古ミカン支部長「となると、後は役人上がりのカチコチさんだけですな」
「あなたとミーちゃんが、陰で悪口言ってるの知っていますよ」
「今時、指一本のパソコン入力じゃ困るのです。せめて二本位で」
ピロ子 「もう、やめてください。支部長がどうにかしたらじゃないですか」
「それよりも、あのカビミカン、一時間でも早く捨ててください」
「職場衛生のこと考えてほしい。まわりの迷惑と当て擦り、何なの」
古ミカン支部長「ピロ子さんねえ、私のこと古ミカン支部長とあだ名付けてない?」
ピロ子 「絶対に付けてません。実は、変ネコのミーちゃんが付けました」
古ミカン支部長「わかりました。あの古ミカンは、ミーちゃんの机の上に移動です」
「それでいいですね、ピロ子さん?」
ピロ子 「この事は、本部の局長に報告します。職場を私物化しよう、と」
古ミカン支部長「んーー……」
まったくもって困った上司がいるものである。私がここでピロ子に代わって書いた。
彼女は、古ミカン支部長の机の隅のカビミカンが気になってしょうがない。
何故、捨てないのだろうか、もしや形而上学的な深い思想があるのでは。
あるいは、ある宗教に洗脳されてはいまいか。はたまたトラウマか、謎である。




