二十七話 ベリーダンサー、フィヨラの笑み
セルジュク朝トルコと言えば、オスマン帝国の前身みたいなものである。
11世紀、中央アジアのステップからアナトリアの大地へと押し寄せて来た。
遊牧騎馬民族の襲来、この地でキリスト教徒、アラブ人、ジプシーと出会う。
黄色の民は、白き人々に驚き目を見張った。異文化に接していったのである。
ダマスカス侵略のとき、アラブの熱気たぎるスークでのこと。
部隊長の一人であるゾルタンは、女を求めて夜の戸張へと吸い込まれていった。
あまたの女が待ち構えていた。向こうも、この黄色い男がめずらしいのである。
男と女に言葉はいらない。金のみで流れた。奥からは淫靡なにおいが。
このゾルタンは、黙ってのっかって来る多くのトルコ族と少し違った。
女に話しかけるのである。通じるわけはない、アラブのジプシー女相手に……
ゾルタン「メルハバ ベン チュリク(こんばんは 私 トルコ族)」
「スィズ ギュゼル チョクギュゼル(あなた いい とてもいい)」
「ネ カダール?(いくら?)」
フィヨラ「ハムスーン(50)」
ゾルタン「エルリ(50) タマンタマン(わかったわかった)」
「スィズ アドゥン ネ?(あなた 名前 何?)」
フィヨラ「……」
褐色の痩せたジプシー女は、男の手をつかんで閨へと引き寄せる。
侵略者である男達は、アナトリアに入ってからというもの、夜も戦だった。
情け容赦なく抱きまくった。だがである、そこの所もゾルタンは違っていた。
一戦をおえた後のこと、このジプシー女は帰してくれなかった。どうして。
優しく扱ってくれたお礼か、腰布のみで踊り出した。ベリーダンスである。
……ラララン ラララ ラララララララ ラーラララ ラララ ラララ……
アラビックなリズムを足で作り、上半身と下半身がまるで別の生き物の様に。
ベリーが妖艶にうねりまくる、女は光になったり影になったりして踊る。
これは、いにしえのアラブの男が閨で求めた営みであったとも言う。
男はこの踊りを騎乗位で喰らったなら、即、アッラーに召される事になる。
ゾルタンは、凄技を喰らわせてもらった。ジプシー女は初めて笑った。
シーシャ(水タバコ)の煙は揺らいだ。女は煙に、煙は女にと……
ゾルタン「……ジャメーラ(かわいい) ヤールン(あしたも、な)」
フィヨラ「アンタ アホーヤ(あなた兄弟) シュクラン(ありがとう)」
ゾルタン「サーオルン(ありがとう) サラーム(平和)」
フィヨラ「アナー フィヨラ(私 フィヨラ) サラーム(平和)」
ここはダマスカス、古代からの回廊である。いろんな民が交流して来た。
夜は閨で交流、このベリーダンスに酔う男達、アラブの夜は悦楽へといざなう。




