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対話体小説 小話集  作者: 藤原 てるてる
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二十六話  ルビコン川を渡り、幼少期の私に会いに行く

紀元前48年1月、ローマの軍人カエサルは軍団を率いて進軍開始する。

本国と属州とを分ける、このルビコン川を渡りローマ内戦の火ぶたを。

「賽は投げられた」彼は叫んだ。これは反乱である。ローマ帝国相手に。


歴史上の事はさて置き、私自身のとってのルビコン川を渡った話をする。

私は原点に戻ろうと思う、家庭では3歳初めまでは平穏、のち影差し始める。

7歳から10年間の辛酸を舐める。すっかり人が変わってしまっている。

こんなんじゃない、ない、絶対ない。その心の叫びを、大元にたどりたい。

当時、4歳だった自分自身に会いに行こう。聞いてみたい事が……


今の私 「ねえ、白黒テレビの前に一人すわって、歌番組を見ていたよね」

    「いしだあゆみの、ブルー・ライト・ヨコハマが流れていた」

    「綺麗な人だったね、きえてった母さんにだぶらせて、じっとね」

4歳の私「うん、さみしかった。かあちゃん、どっかに行った」

今の私 「3歳の初めに別れたんだから、顔を憶えているはずだけど」

4歳の私「なんかいたような。でも、憶えてない。何も憶えてない」

今の私 「それはね、忘れる事で心を守ったんだよ。守るためにね」

    「難しく言うと、記憶の封印。ほかの家族の事やネコは憶えてるのに」

    「2歳の時からの記憶があるよね。婆やが池でオムツを洗っていた」

    「こう言ってたね、『こんげん、でっけえのが出たいや』笑いながら」

4歳の私「うん、よく憶えてる。いい婆ちゃん。母ちゃんみたいだった」

今の私 「ネコが、飼ってた子ネコ3匹が一度に死んだね、母ネコが気付いた」

    「2階から階段を、カタンコトンと降りて来た。その音も憶えてるね」

4歳の私「びっくりした。夜、やな臭いがした。爺ちゃん布団めくった」

    「ネコ、3匹死んでた。首とれてた。体、ふたつになってた」

今の私 「そう、そこで爺ちゃんがこう言った『何かの、前触れでねえけ』と」

    「ただ事じゃなかったね、首取れだけじゃなく、胴体真っ二つもあった」

    「魔物の仕業だよ。その日の夜に、弟がとんでもない死に方をした」

    「あのネコ達の怪死が前触れで、弟の死が本番だったんだよ、恐いね」

4歳の私「うん、弟が死んだとき、そばにいた。はいはいしながら、池に落ちた」

今の私 「ねえ、何でそばにいたのに止めなかったの? 救えたのに、どうして」

4歳の私「……子守してないな、と思った。家にすぐもどった」

今の私 「弟を抱きかかえて家に戻ってれば、死なずにすんだのに、まったく」

    「取り返しのつかない事をした。弟を泣かしたことも、何やってんだ」

4歳の私「弟、好きじゃなかった。泣かして、婆ちゃんにとめられた」

今の私 「その後で、母ちゃんと生き別れになったよね。でも、それはそれで」

    「弟の死、ネコ、婆やは良く憶えているのに、母ちゃんは消えてるんだね」

4歳の私「うん、さみしくて。なんで、いないんだって……」

今の私 「誰も教えてくれなかったんだもんね。でも、いい婆ちゃんがいたから」

    「わかったよ、あの時、弟を救う救わないではなかったんだね」

    「そういう流れで、そういう事があったんだね。もう、いいよ……」



これは実話に基づく、私は3歳の時に摩訶不思議な体験をした。

真夜中の寝床での子ネコ3匹の怪死、はいはいしている弟の悲惨極まる最期。

もし、その時、私が弟を抱きかかえていたら、私もろとも引っ張られたやも。

また、魔物がいるとして、弟だけが狙いなら、はなから除けられていたかも。

とにかく、時空を超えた世界には、何かがいる。まさに、いる。

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