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対話体小説 小話集  作者: 藤原 てるてる
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十二話  関東大震災秘話 「五十五銭」

帝都壊滅かと思われる未曽有の災害。東京市の4割強を焼く。死者10万強。

ここでは日本人の被害については置く。記録に残らなかった事実を載せる。

人は窮地に陥ると正気を失う。群集心理も働き敵を作りだす事に向かう。

破れかぶれで、何かにぶち当たりたくなる、やり場のない怒りが暴発する。


自警団、何から何を守ろうとしたのか、そう、朝鮮人から守ろうとした。

とんだナショナリズムである。日本人はこの程度か、だから敗戦に繋がる。

帝国主義の尻馬に乗って、アジア同胞の血肉を喰らい一等国気取り。

震災被害は日本人だけでは毛頭ない、朝鮮の人々の声を私が代わって記す。

この人たちの声が、埋もれたままなのである、辛いことに。


・・・・震災の火災が、ようやく収まった頃の話である。

赤坂見附の紀尾井坂は、大八車でごった返している、荷物があればまだましである。

すっからかんの褌一丁もいる。親は子を見失い声枯らしわめく、なんも届かね。

どこ逃げるや、皇居前広場なら安全だ、天皇様がおわす、とみな向かおうとする。

入り口に柵みたいにして、通せんぼしてんがいる、眼付の悪いんがかたまって。


オラ 「天皇様んとこには、ここから入るってかや、入れてくれて」

自警団「おいガキ、お前、日本人か?」

オラ 「そうだて、日本も日本、大日本人だ。天皇様が遠眼鏡好きなんも知っとる」

自警団「それを言うなって、今はそうじゃのうて、本当で日本人か?」

   「じゃお前、国はどこだ、お国ん言葉で何か言ってみろ」

オラ 「オラ越後らいのう、雪ん中で育ちましたて。向こうは地震ねえこってすて」

自警団「うん、ただの百姓のガキやな。よし行っていいぞ。なんとかやれ」

オラ 「ご苦労さんだの。あの、なに見張ってらんだて?」

自警団「朝鮮人だ。火事場に付け込んで悪さやんだ、そんただ奴、通さんわな」

オラ 「ほっかほっか、顔も似てるしの、着物も同じらいて、見分けつかねえ」

自警団「五十五銭と言わすんや。朝鮮は濁点が言えんでの、こいで一遍にわかる」

   「お前はもういい、さっさと行け」

オラ 「ほい・・・・」


何人かが柵を越えてった後の事、帽子を深々と被った男が来た。

目は落ち着かない、前の人に続け様に入ろうとしていた、しれっと・・・・


自警団「こらっ、ちゃんと並べ、ここで確かめてから通すんだ」

男  「はいっ、わかりました」

自警団「いいかや、こいはみんなに聞いておる、お前は日本人け?」

男  「日本、ええ日本。今は東京、その前は大阪、もっと前は博多にいました」

自警団「ああそう、東京に出て来てこの地震、さんざんだのう。わかった、行け」

男  「ああ、日本は大変なことなりました。みなさん見回り、コクロウ様」

自警団「待てっ、お前、日本人じゃねえな。ごくろう様って、もう一度行ってみい」

男  「はぁ、コクロウ様。みなさん、コクロウ様。それ何か?」

自警団「じゃ、五十五銭と言ってみろ、そんでお前が日本人じゃ否かがわかる」

男  「わかりました。コシュウコセン、コシュウコセン、はい、もう・・・・」

自警団「捕まえた、朝鮮人だ。日本人のふりしやがって、こっち来い、来い」

   「これだから油断ならんのや、何しやがるかわからん、出来んようにしたる」

   「この野郎、天誅を喰らわす。ひざまずけ、喰らえっーー」

男  「ケーセッキ(犬野郎)ーーー」


この様な痛ましい事は、東京市を越え荒れた。

被害者の記録は残りにくい、加害の日本人は口を閉ざす。被害者は口もない。

昭和に入り、大東亜共栄圏と言う美辞麗句を謳う。何をか言わんやである。

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