壱 黒い縁取りがありました
訃報はデジタルで流れてきた。
《1年7組 2年5組 3年8組だった古河優子さんが きのう亡くなりました 白血病でした お通夜はきょう 告別式はあす 場所は市内のセレモニーホール中央です 鈴木(旧姓 宮国)あかね》
ソーシャル・ネットワーキング・サービスのサイトをパソコンでのぞいていて、高校の同窓生で作るグループの掲示板に、こんな投稿があるのを見つけた。句読点を排除したなんの装飾も施されていない短いテキスト文書は、それが間違いなく訃報であることを物語る。
進藤雅弘は、パソコンのモニター画面を凝視した。実感が湧かない。どこか知らない遠い土地で、自分の知らない同姓同名の古河優子が死んだのではないかと疑った。投稿主の旧姓・宮国あかねの名に心当たりがないことも、よけいに進藤をそんな思いにさせる。
パソコン操作をやめてデスクから立ち上がり進藤は、別の部屋にある押し入れ上の天袋から、手探りで高校の卒業アルバムを引っ張り出した。厚い紙の箱から乱暴に中身を抜いた。えんじ色の、けば立つ布地の表紙だ。
アルバムのページをめくると、優子のポートレートはすぐに見つかった。冬物の紺色セーラー服姿だ。すまし顔の優子は、進藤の記憶の中の彼女よりずいぶん幼く感じられる。
進藤はさらに、天袋の奥から小学校の卒業アルバムを探し出した。高校のアルバムより薄く、簡素な装丁だ。箱はもともとなかった。紙の黒い表紙は、反り返っている。表紙に輝いていたはずの金色の校章は大部分がはがれて、デザインの原型をとどめていない。
ぱらぱらとページをめくった。何度もめくった。進藤の視界は、ぐるぐる回転しだした。そんなばかな…そんなばかな…。
◇ ◇ ◇
(「弐の1 あれは十七歳になる初秋のことです」に続く)