駅のホーム、あなたからもらった缶コーヒー
なろうラジオ大賞4の応募作です。
高校三年生の冬。受験まであと一か月に差し迫ったとある日、駅のホームで私は単語帳を片手に電車を待っていた。
ちらほらと雪が降っている。雪の影響で電車が遅れているというアナウンスが流れる。
行きと帰りの隙間時間で勉強をしようと考えていたため、手袋はつけていない。寒さでかじかんでいる私の手はうまく単語帳のページをめくることができず、単語帳をぽとりと落としてしまった。慌てて私はしゃがみ込み、単語帳を拾う。
仕方なく私は単語帳をいったんカバンにしまい、口の前で両手をこすりつけ温かい息を吹きかける。
「あれ、斎藤さん?」
唐突に声がかけられる。声の方を向くと、そこには同級生の橋本君が立っていた。
私の心臓がドキリと跳ね上がった。実は、私は橋本君にひそかに恋心を抱いている。志望校も彼に合わせるため、自分の学力よりワンランク上の大学を志望した。
志望校を合わせたため、最近は話す機会も増えたのだが、好きな人と面と向かって話すのはどうしても緊張してしまう。
橋本君は私が手袋をつけておらず、寒そうに両手をこすりつけているのを見て、近くにあった自販機へと近づいた。彼はスマホのICで手早く缶コーヒーを購入して、私に差し出してくれる。
急な出来事に私は少し受け取るのを躊躇してしまう。
「あれ?この前勉強してるとき微糖を飲んでたと思ったけど、もしかして無糖派だった?」
そんなところを見られていたとは思わなくて、私はとても驚いた。彼は笑顔のまま缶コーヒーを持った手をこちらに伸ばしたまま固まる。有無を言わせぬ彼の態度に、私はおずおずと缶コーヒーを受け取った。
「あちちっ。」
その缶コーヒーの熱さに、私は思わずお手玉してしまう。何とかプルタブを引っ張って開けて、口をつけて一口飲んでみる。
体の中に缶コーヒーの熱がしみわたっていく。その熱がとても心地よいのは、もしかしたら缶コーヒーの熱だけじゃないのかもしれない。
「ありがとう、橋本君。」
私はお礼の言葉を口にして、大事そうに缶コーヒーを抱える。私の想いを胸にとどめておくように。
この想いは受験が終わったら伝えよう。その時まで、もう少し頑張ろう。
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