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奇跡の右手

 翌日神とキャシディは、彼女の生れ故郷である牧場へと赴いていた。故郷とはいっても前線基地から二十キロ程しか離れていない。そこへは牧場方面へ行くトラックに便乗させてもらった。

 そのトラックには軽傷者や休暇者の他、さまざまな荷物などが積まれていっぱいだった。これが帰りには食料品や休暇の終わった戦士達が積み込まれるのだろう。

 乏しい資源をやりくりしなければいけないレジスタンス達にとって、空っぽのトラックを走らすような余裕はない。

 長い連絡トンネルを抜けると、いきなり視界が広がる。比較的安定した地殻に掘られた、大規模施設用の地下空洞だったが、今はレジスタンスが分捕って牧場として使用していた。

 彼らがここへ来る事になった理由は、昨晩にもどる。


「あぁ、やっぱり合成肉はおいしくなーい」


 キャシディが夕食の肉をつついてぼやく。本物の肉を食べた後では、どんなによくできた合成肉だろうとまずく感じられるのは、まあ、しかたがないことだろう。


「どうせ次に本物にありつけるのは、ずっと先の話だ。そのうち慣れる」


 そんな彼女をフレディがたしなめる。

 合成肉もけっしてまずいわけではない。慣れればそれなりに食べられるのだが、やはり本物とは格段に違う。


「せめて誕生日くらいは本物が食べたいな」


 普通の人では、冠婚葬祭の時に食べられればいい方だった。


「それには家畜の数が、今の数倍に増えなければ無理だ」

「そんなの、あたしの生きているうちには有り得そうもないわね」


 彼女はそういって小さな肩をすくめる。


「いや、そんなことはないぞ。遺伝子さえまともになれば、ぼこぼこ子供を生むはずじゃ。病気にもかかりにくくなるし。昔と状況がさほど変わっておらんようだから、わしがフリーザーで凍らされる前の計算どおりなら、五年で今の三倍にはできる。もし、百年前にわしがドジをふまなかったなら、今ごろは家畜が増え過ぎて、間引かなければいけないほどじゃったろう」

「それほんと!?」

「わしは落ちぶれたとはいえ神じゃ。うそはいわん。もともとわしの奇跡の力は、足を治すためではなく、ゆがんだ遺伝子をなおす力だからな」

「じゃあ、あした牧場にいこ。どーせやつらの研究は煮詰まっているんでしょ?」


 キャシディはそういって神の肩をゆする。


「そんなにあわてなくともいいだろう。家畜が成長するのは何年という単位だ。一日や二日早まったからってたいした違いはない」


 そんなキャシディをたしなめたのは、やはりフレディだ。


「それはそうだけど……」

「わしはかまわんぞ。データ解析はやつらのおはこじゃ。そのデータを見てやつらの弱点がわかるようなら、やつらもすでに知っている弱点に違いない。

やつらでさえ気が付かないような発想の転換が必要なんじゃ」


 コンピュータが思い付くような弱点ならば、重要度の違いこそあれ、なんらかの対処方が考えられているに違いない。それを出し抜くにはコンピュータには考えられない奇抜な作戦を思い付く必要がある。そうでなければ、現在の戦力でまともに闘っては、まったく勝ち目はなかった。


「そういうことなら、隊長から牧場の方へ話を通してもらいましょう。俺は明日から通常任務があるんでついていけませんが、キャシーに案内してもらえばいい」

「あたしたちの牧場を見せてあげる。あたしが取り上げた牛なんかもいるのよ」


 レジスタンスの活動でここしばらく帰っていなかったので、ちょっとはしゃぎ気味のキャシディだった。

 もちろん今のキャシディは、見かけ上十二才の少女であり、本人として行くわけにもいかない。そこで神を獣医、そしてキャシディはその孫娘として、家畜の治療と検診に行くという事にした。

 トラックはいくつかの地下空洞へ立ち寄り、人や荷物を下ろす。そして、下ろした分量と同じくらいの物を積みながら牧場へ向かう。そのため、終止ぎゅうぎゅう詰めだったし、普通に走れば三十分とかからない道のりが、二時間あまりもかかった。


「年寄りにはけっこうこたえるわい」


 神はそういってぼやく。


「なにいってるの、おじいちゃん。これから家畜たちのめんどうをみなきゃいけないのに、いまからへたばってどーするの?」


 すでにおしゃまな孫娘を演じているキャシディにはっぱをかけられ、やれやれとつぶやく神だった。


 牧場の入り口で神達を出迎えたのは、すでに老齢にかかった一人の男だ。


「お待ちしておりました。私はこの牧場の管理責任者で、ロベルト・白石といいます」

「始めまして、ドクタージーザスです。この娘はわしの孫で……」

「キャシーよ」


 彼女は神の言葉を引き継ぐようにいう。もちろん、キャシディはロベルトのことは知っているし面識があったが、まさか彼女が十二歳の少女に変わっているとは思いもしないだろう。だから、愛称を名乗っても気づく様子はない。


「前のドクターがお亡くなりになってから三年の間、獣医がいなかったと聞きましたが……」

「ええ。一人ですべての家畜の面倒を見ていらしたものですから、無理がたたって……。本当に惜しい方をなくしました。見た所、先生もかなりご高齢の様子。われらもこの三年で簡単な手当程度でしたらできるようになりましたから、あまり無理をなさらずに、末長くお付き合いいただきたい」


 レジスタンスには十分な教育施設もなく、教師もいない。特に医者やコンピュータ技士の様に、高度な知識を必要とする分野では、人材を育てる事さえできなかった。高度な分野になればなるほど、機械達の施設から脱走してきた人に頼らざるをえない。


「心配には及びません。やつらが新しい医療技術を開発したので、それごと逃げてきました。その技術を使えば、驚くほど短時間で検査と治療ができるのです」

「それはすばらしい。では、来て早々お疲れでしょうが、病気の家畜がいくらかおりますので、まずそれを診てもらえませんでしょうか?」


 神は快く承諾し、ロベルトの後に従い厩舎へと向かった。もちろんキャシディは案内されるまでもなく、厩舎の位置は知っているが、おとなしく神の後に続く。


「とりあえず、牛からお願いしたいのですが、かまいませんかな?」


 ロベルトのいうことによると、最近牛達の間に伝染病らしきものがはやりだしているらしい。


「怪我くらいなら我々にもなんとかなりますが、伝染病となるとまったく手におえません。せいぜい病気にかかったものを隔離するくらいが関の山で……。なんとかよろしくお願いします」

「うむ。最善をつくします」


 隔離された牛達のいる厩舎では、幾人かの係員が牛達の世話をやいていた。


「お手伝いが必要でしたら、ここにいる者たちにいいつけて下さい。私は事務所の方におりますので……」


 ロベルトはここの責任者らしき女性に二、三指示を与えた後、厩舎を出る。


「第三厩舎舎長のマルガリータ・島崎です。着いて早々で済みませんが、衰弱の激しいのが何頭かいますので、それからお願いしたいのですが……」


 その女性はロベルトとほぼ同じ年齢だろうか。しわの深さが彼女がたどってきたであろう人生の厳しさを物語っているようだ。


「ドクタージーザスです。もちろん構いませんとも」


 神達はマルガリータに連れられて奥の一画へ赴く。そこは特に重病の牛達がまとめられていた。


「では、お願いします。なにか必要なものはありますか? 一応、前のドクターが使っていました器具は持ってきてありますが……」

「メスを一本と消毒薬、それに脱脂綿が少々あれば結構」


 彼女は首をかしげながらも、いわれた物を用意する。どう見ても彼らは手ぶらなのに、まともな器具もなしに診察を行うというのだ。うさんくさく思われてもしかたないだろう。

 神はそんな疑しげな視線など知らぬげに、一頭の牛の元へかがみ込む。


「尻のところを少し切るから、ちょっとおさえておいてもらえんかな。まあ、暴れるだけの体力はなさそうじゃが……」


 いわれて、キャシディとマルガリータはその牛の足と胴を押える。

 神は消毒液で自分の手を清めた後、その牛の臀部に五ミリメートル程の傷をつけた。牛はぴくりと耳を震わせただけで、暴れるような気配はなかった。


「どれどれ……」


 わずかに血がにじみだしている傷口に、神は右手の人さし指を差し込んだ。


「なにを……」


 マルガリータは想像を絶する行為に思わず声を上げる。それを神は左手で制して、指から送り込まれるデータに集中した。


「おじいちゃん、どうなの?」


 沈黙に耐えられなくなったキャシディが尋ねる。


「うむ。病原菌自体はたいしたことがないのじゃが、いかんせん、体力がなさ過ぎる。免疫システムもがたがたじゃ。回復にはちと時間がかかるじゃろう」


 遺伝子のゆがみで免疫機構が正常に働かないせいで、普段ならかからない病気にも冒される。その病気のために体力がなくなり、また別の病気に冒される、といった具合に、悪循環が繰り返されていた。

 神の持つ装置では、免疫機構を正常化あるいは活性化することはできても、体力を回復させることはできない。


「とりあえず、免疫システムは補修強化しておいた。あとはこいつの生きる気力にかかっておる」


 神は次々と牛達を見て回り治療していった。体力の落ちているものは、すぐに回復させるわけにはいかなかったが、病気になり初めの比較的症状の軽いものならば、ほとんどその場で元気に走り回るほどまで回復した。

 そうして一通り病気の牛達を治療し終ったころには、昼となっていた。


「食事の準備ができましたので、ひと区切りつきましたら、事務所の方へおこし願えませんかな?」


 ロベルトは治療をしている神の肩越しに声をかける。


「おおっ! もうそんな時間ですか。すぐに終わりますので少々お待ちくだされ」


 神は十数秒の後、人さし指を抜き取り、漏れ出た血を脱脂綿で拭き取る。

わずかに切れ目が見えるが、それもすぐにふさがり、数秒後には傷そのものがなくなってしまう。


「まさかそんな!!」


 ロベルトは我が目が信じられないとでもいうように、その牛のそばにかがみ込み、傷口のあったらしきところをさっとなでる。


「わたしも最初見た時は驚きました。治療にかかる時間もわずかですし、病気はともかくちょっとしたケガくらいなら十分もあれば完全に治ってしまうのです。機械どもの技術の進歩はまったく恐ろしいほどです」

「こういった医療技術なら、われらも歓迎すべきなんでしょうが、武器やガードマシーナが強化されたりしたら、と思うと身が縮むような思いがします」


 まるで奇跡のような技術に、彼らは恐れおののく。機械達の技術が進歩するということは、その支配下から逃れた彼ら自身を守るために、さらに多くの血を流さねばならないということだ。


「技術力が違うといっても、いたずらに恐れる必要はありませんぞ。この新しい医療技術を持つのはわしだけじゃろうし、まだまだ量産できる体制になってはおらんでしょう。たぶんテスト的に色々なものを作って、そのうち効果の高いものを選び量産するのだと思われます。量産化に入る前に叩ければ、まだチャンスはあるはず」


 神はこう説くが、実際のところ希望はあまりなかった。先の作戦で多大な損害を出し、優秀な戦士を幾人も失った。レジスタンスの存亡を賭けた大事な一戦だっただけに失望も大きい。


「おじいちゃん、おなかへった」


 キャシーが神の裾をひっぱりつつ訴える。重苦しい雰囲気を吹き払おうと彼女が気を利かせたのだ。


「すまん、すまん。話に夢中になってしまったようじゃ」


 神は、今は少女の姿をしているキャシディの頭をなでる。


「この子らの未来のために、どんなに困難であっても負けられない戦いなのです。気を引締めていきましょう」


 神の言葉に二人はうなずき、少女を見て目を細める。今を生きる子供達と将来生まれてくるだろう子供達のために、決意を新たにした彼らだった。


 午前中で牛の治療が終わってしまったので、午後は豚と鶏の治療を行った。

手順は牛の時と変わりない。動かないように押えておいて、メスで切れ込みを入れる。そこへ神が右手の人さし指を差し込み、遺伝子の状態や病原菌の情報を読み取り、適切な治療を行っていく。

 大変だったのは鶏の治療の時だった。とにかくじっとしていない。捕まえようとすれば逃げる。捕まえても往生際悪く、つっつくわ、じたばたするわ、鳴きわめくわ、それはもう大変な騒ぎだった。


「いたたた! これ、キャシー。しっかり捕まえといてくれんか」

「だって、だって、キャッ!」


 鶏は今にも殺されそうな悲痛な声で鳴き、傍から見たら治療しているというより、首を絞めているように見えるに違いない。

 鶏の病気は皮膚病とか生命にあまり影響のない病気が多く、動く元気すらないものはほとんどいなかったため、こういった騒がしい治療となってしまった。


「こら! じっとせんか!!」


 いっても無駄とは知りつつもいわずにはいられなかった。ちっこいぶん数が多いので、迅速に作業を進めなければいけないのに、このぶんでは今日一日では終わりそうになかった。


「きゃぁ!!」


 羽根で目を叩かれ、キャシディは思わず手を離してしまう。自由の身となった鶏は、柵の中を駆け回り、集めてあった他の鶏までつられて飛び回り駆け回る。柵の中は、もうパニック状態だ。

 飛びついてくる鶏をよければ、足下を駆け抜けていく。これでは動くこともままならず、みな顔や頭を庇い、しゃがみ込む。


「落ち着くまでほっておきましょう」


 神はマルガリータの声のした方をちらりと見る。やはり彼と同じようにうずくまり、鶏達を刺激しないようにしている。


「まったく身動きがとれんな」


 神はそう一人ごちたその時、一つのアイディアが閃く。

 この方法ならやつらを出し抜けるかも!

 そのアイディアはあまりにも魅力的すぎて、重大な欠陥に気づくまでしばらくかかる。あまりにも大きな欠陥なので、実現は不可能。いや、こんなことを行う権利がはたしてあるのか。別の方法を考えるべきではないか? 神は自問自答する。


「おじいちゃん。おじいちゃん、だいじょうぶ?」


 考えにふけっていた神は、鶏達の騒ぎが収まってからも、うずくまったままだったので、皆が心配して集まってきていた。


「いや、だいじょうぶじゃ。ちょっと考え事をしていた。……今日は鶏達も興奮しているようじゃし、明日方法を変えて、一羽ずつ治療した方がいいじゃろう」


 肝心のドクターにそういわれてしまえば、他の者にはどうしようもない。

なにしろ治療は神一人に頼っているのだから、彼の言葉は絶対である。


「そうですね。今日緊急に治療が必要なのはもういませんし、ドクターもだいぶお疲れのご様子。ここまでということにしましょう」


 マルガリータは他の者達に後始末を命じ、神達を用意しておいた部屋へと案内する。


「十分なもてなしもできませんが、夕食の時にささやかながら、歓迎の宴を開きたいとロベルトが申しております。それまでまだ少々時間がありますので、それまでごゆるりとお休み下さい。準備が整いましたらお知らせしますので……」


 彼女はそっと戸を閉め、部屋には神とキャシディだけとなった。


「ねぇ、神様。ほんとにどうしたんですか?」


 ベッドに腰掛け、なおも考え続けている神に少女が尋ねた。


「うむ。実はちょっと閃いたことがあるんじゃ。成功すれば天界を制圧できるじゃろう。だが、失敗したら、作戦に参加した戦士だけではなく、レジスタンス組織そのものが全滅しかねない危険なものだ。わしにこのアイディアを実行に移す権利、あるいは義務があるのか?」


 神は少女へ語ると同時に、自分へも問いかけていた。

 元はといえば神の不注意でコンピュータが制御を失ったのだから、彼にはそれを正常化する義務があるはずである。だが、天界の塔へたどりつくまでに、多くの人の血が流れるだろう。それを強制する権利が、神にあろうはずがない。

 たしかに成功すれば、天界の塔最上部にあるメインコントロールルームを制圧し、機械を再び人間の下僕とすることができる。そうなった時、機械の保護と強制により従順に従う人間でなく、レジスタンスという生と死の境目で精一杯生きてきた、精神的にも肉体的にも強靭な人々が、世の中を導いていくことになるだろう。

 放射能やさまざまな病原菌でおかされ、ゆがんだ生命しか生きられなくなった地上を再び緑あふれ、生きとし生けるものの楽園と変えるためには、彼らと機械の力を合わせる必要があった。

 だがもし失敗した時(決して低い確率ではない!!)は、実際に闘う戦士のみでなく、子供達を含む、彼らを支えるすべての人々が、全滅の危機に陥るのは間違いない。なにしろこのアイディアを実現するには、彼らのすべてを注ぎ込まなければならないのだ!!

 神の力により、少女となって生き永らえた金髪の女戦士は、だまって神の告白を聞く。


「たぶん、神様にその権利も義務もないわ」

「そのとおりじゃろう」


 神はうなずく。


「その権利があるのはすべてを賭けるあたしたち。義務はそうすると決めたあたしたちにあるわ。あたしたちの未来はあたしたちで決める」


 なりは少女でも中身は二十四才。歴戦の強者であった。


「まったくそのとおりじゃ。わしは思い上がっていたかもしれん。いや、思い上がっておったのじゃろう。わしがいなかったら人類は絶滅していた、そう思って無意識かもしれんが、いつの間にか他の人々を神の視点から見下ろすようになっていた」


 もしかしたら、制御を失ったのはコンピュータではなく、自分自身ではなかったか? そう考えてみると思い当たることが山ほど出てくる。

 最初のころはまだ他に仲間もいて、全世界に生き残った人間や生物、使えそうな機械などを集めて回った。やらなければならない事は多かったが、絶対的に人手が足りなかった。だが、果たしてそうだったのか? 生き残った人々の中には、優秀な人物もいたはずである。そうした人物を排斥し、自分達だけで塔を独占したのは、特権的地位を失いたくなかったからではないのか?

 その後他の神が死に絶え、彼一人になった時、人々の生活は貧しいながら安定していたはずだ。この状態を続けるだけなら、それ程難しいメンテナンスや調整は必要ないわけで、そういったことを彼らにまかせ、神は失われた技術の回復に勤めれば、もっと早くに技術力を高められたかもしれない。

 自分以外にできる人間がいない。そう思うことが、思い上がりでなくてなんであろうか?

 神はこれまで自分でしてきたことを振り返ってみる。これまで比較すべき対象が皆無であったため気が付かなかった傲慢さが、次々に思い浮かぶ。


「わしは取り返しのつかないことをしてきた。死んでいった者達には、償うどころか謝ることすらできん」


 神は自らを責める。


「機械はどうだか知らないけど、人なら誰でも取り返しのつかない間違いをするわ。でもそれに気付いたら、自分のできる限りの償いをすればいいのよ。

人間だからできることにも限りがあるもの。本当の神様なら、時間をもどしてやりなおすこともできるかもしれないけど、人には無理だし、できたとしてもしちゃいけないことだと思う。自分はやりなおせるかもしれないけど、その間になされた他の人の努力が無になる可能性もあるわ」


 キャシディの言葉一つ一つが胸に染み入るような気がする。彼女より多くの時を生きてきた神だったが、どうやら彼女の方が密度の高い日々を過ごしてきたようだ。


「たしかに。いまさら悔やんだとて、なんの意味もない。それよりわしのできることを精一杯やろう。それが何よりの償いだと信じて……」


 体力は衰えたとはいえ、脳はまだ十分働く。補助装置も問題ない。コンピュータに関するエキスパートであり、その細部まで知りつくしている。

 先程の閃きを検証し、欠陥がないかチェックできるのは彼だけだろう。だが神には実戦の経験がない。ゆえに、それをどう運用すれば効果的か、投入する人員、物資をどうするかなど、手に余る問題もある。これはレジスタンスの戦略戦術を担当している者に検討してもらうしかない。

 もちろん非戦闘員にまでその影響が及ぶこの作戦が、支持されるかどうかが大前提となるが。


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