笛吹少年
「音楽の方は?」
「音楽は、それどころじゃないというとこでしたね。
もちろん、ピアノはないし、
いくら大きな家だといったって、
15~6人の児童が暮らしているんですから、
大きな声を出したりしたら迷惑になるでしょ。
だから大きな声を出すこともできない。
発声練習なんて、とんでもないっていう雰囲気でしたよ。
そうそう、たまたま、リコーダーがあるのを見つけたんです。ぼく。
それで、吹いても良いですか?って聞いて、
リコーダーを吹いたら、みんなが上手い上手いってほめてくれて。
お母さんが、あんたにあげるわね。と言ってくれたんだ。
それからはよくリコーダーを吹いていたな。
みんなからは、「笛吹少年」なんて、いわれてましたよ。」
「風が出てきたようですね。
窓を閉めましょうか。」
「そうだ、あの日も、風が吹いていたなぁ。
学校の帰り、
僕はとにかくリコーダーを吹くのが楽しくて仕方がないから
学校から帰る時もリコーダーを吹きながら帰ったんですよ。
他の子たちは、早く帰って遊びたいから、
そんな僕を置いて先へ帰っていってしまった。
だから、いつも一人でリコーダーを吹きながら帰ったんです。
駅前の所まで来ると、
自転車置き場には何十台もの自転車が乱雑に停められているけど
その日は、赤い自転車がひっくり返って、
半分くらい歩道の方まではみ出していたんです。
危ないし、綺麗な自転車に傷がついちゃうんじゃないかなと思って、
僕は自転車を起こそうとしたんですよ。
なんだか、ほっそりとした自転車だったので、
片手で持ちあげられるかと思って、片手で持ち上げようとしたんです。
でも、車輪が大きいせいか、片手では持ち上がらなかった。
そこで、両手で起こそうとしてかがみこんだんだ。
そうしたら、