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自由になりたい!

遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえる。

どこかで交通事故でもあったのだろうか?


パトカーはどんどん近づいてくるようだ。


そして、さっきタクシーが戻っていったあの木立の間から

白と黒に彩られたパトカーが現れた。

赤色灯をともして玄関前に停車したパトカーから

警官2名が降り立った。


何事かと思っていると、

談話室のドアがノックされ、

警備員がドアを開いた。


警備員が「警察の方です」と言うより早く


「失礼します。

城東署のものです。

乃木下一公かずまささんですね。

YYKサポート国際詐欺団の

詐欺事件容疑者として、逮捕します」


といって、逮捕状をかざした。

もう一人の警官がいち早く男に手錠をかけた。


一体何が起こったのか、分からなかった。

男も呆然と佇んでいる。


「乃木下さん、

あなたは最近、

東京都千代田区紀尾井町の紀尾井町エクセレントコートを

3億2千万円で売却しましたね。

あの物件は国際的詐欺集団である

YYKサポートエンタプライズによる詐欺物件だったことが判明しました。

したがって、あなたを詐欺集団の一人であるとの疑いで逮捕します。」


「あれは、僕が一生懸命に貯めたお金で購入したんですよ。

詐欺なんかじゃありません。

大体、そんな何とか詐欺集団なんて、聞いたこともない。

それに、僕は今まで悪いことなんか

一度もしたことなんかありませんよ。」


「乃木下さん、詳しいことは署へ行ってからお伺いします。

それにしても、

あなたは、一度も悪いことなどしたことがないと

おっしゃいましたが、

以前、自転車の窃盗をしたことがありますよね。

未遂でしたが。

逮捕状申請の前に調べさせてもらいました。」


「え? なんだって? 自転車泥棒!?」


男の目の前に真っ赤な自転車が大きく映し出された!

その赤い自転車が迫ってくる!

フラッシュバックが彼を襲ったのだ!

(冗談じゃない。俺はまた、無実の罪を着せられるのか?)


世界中の人が自分を指さして、

「詐欺犯人」

「詐欺犯人」

「詐欺犯人」

と叫びながら、近寄ってくる。

万事休す!


「俺は詐欺犯なんかじゃない!」

そう叫んで、男は逃げ出そうとした。


男は必死に手錠を振りほどこうとしている。


その彼の眼を見て、私は愕然とした。

(狂っている!)

(完全に狂っている!)


私は警官に、

「逮捕、連行はお待ちください。

この患者さんは完全に精神に異常をきたしています。

緊急入院が必要です。

すぐに当院へ入院させなければなりません。」


私は即座に2人の警備員を呼んだ。

暴れようとする男の手錠を外すためには

捕縛しなければならない。

警備員の捕縛が終わり、手錠が外された。


手錠を外されたためにいくらか落ち着いたのか、

男は暴れるのをやめた。

男が落ち着いたのを見届けて、

警官はパトロールカーのサイレンの音を鳴らさずに帰っていった。


私は男に言った。


「あなたのご希望通りに今から緊急入院していただきます。」


私の話が聞こえているのか、いないのか、

うつろな目つきで、ぼんやりと立ち尽くしている男を

2人の警備員が両脇から抱えるように、

病棟へ向かって歩き出した。


その時だった。


二人の警備員に引きずられるように歩きながら、

男は驚くような大声で叫んだのだ。


「いやだ!

いやだ!

いやだ!

閉じ込められるのは嫌だ! 


俺は、

俺は、

俺は、


自由になりたいんだぁぁぁ!」


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