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僕はダレ?  作者: クアノス
第一章 ~目覚め~
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第三話

お久しぶりです。あけましておめでとうございます。

これからも少しずつですが小説進めて行きますので、よろしくお願いします。

太陽が大空に輝きを放ち、生きとし生ける者達が手を止めて飯にありつく時間。シグハは少しの速足で城内の長い廊下を歩いていた。すれ違うメイドや召使はシグハの表情を伺い頭を下げ、それらを何も無いかの様に彼は通り過ぎていく。目指す行先は廊下の終わりにある巨大な扉。開かれた扉の奥からは中に鎮座する豪華な玉座と、そこに居座る貫禄ある者が見えた。その横に列を成してザワついている民衆は、服装や飾りから誰が見てもこの国の大事な役割を担う貴族達だと分かるだろう。


「宮廷カガク士、シグハ殿が到着しました!」


巨大な扉の前で立ち止まり、両側に控える宮廷兵にそっと顔を向けるシグハ。兵達は彼の顔を確認すると高らかにシグハの到着を中に居る者達に知らせた。先ほどまでザワついていた貴族は王の間へと入ってくる彼に視線を向ける。だが、誰一人として口を開く事は無い。誰もが我らが王、エレレン王の言葉を待っているのだ。


一定の歩調で前へと進むシグハ。王の目前まで来ると片膝を床に付いて頭を軽く下げる。静まり返る会場に聞こえる音は唯一その場に居る者達の息遣いのみ。口を開けたまま王の言葉を待つ者。目を瞑り何やら思考を巡らす者。冷や汗をかき、ハンカチを手にそれを拭う者。


果たしてどれ程の時間を沈黙が支配したか。貫禄のある厳しい表情を保っていた王は静かに玉座を立ち、シグハの元まで歩み寄る。


「面を上げよ。……して、何があったのだ。我が国が未だ滅んでいない様子だ、魔神はまだ復活していないのか。」


その場に居る全ての者が聞きたがっていた言葉だ。誰かが固唾を飲み込み、喉を鳴らした音が聞こえた。冷や汗を流す者もハンカチを動かす事なくシグハから飛び出るだろう答えを待っている。


「陛下。封印の件、一先ずは上手く行きました。」


しかし、シグハの言葉はエレレン王への返事では無く、一つ横にズレた物だ。この言葉に付け加えエレレン王へと視線を向け続けるシグハ。やがて王は何かを悟ったのか、安心した顔を浮かべ、腕を大きく広げて周りにて待機する者達へと声をかけ始めた。


「聞いたか!流石は我が国の宮廷カガク士だ!魔術とは違う技術を使いこなし、見事今回の問題も解決してみせたのだ!!安心せよ!我々の生活は今後も変わらないだろう!!国の為に励むのだ貴族諸君よ!」


そうして数秒の沈黙の後、一人の貴族が片腕を上げ喜びに満ちた声を挙げた。そうして一人と一人がそれに続く。やがてそれは拍手へと変わって行った。今この時だけ派閥等関係なく皆の心が喜びによって一つになったのだ。明日を生きているか心配する必要が一つ無くなったのだから。


「さて、皆の者!もう良いだろう!今日は解散だ!そうして今日と明日を祝日と定めよう!!今日はもう家に帰り、家族に無事を知らせるのだ!!」


エレレン王の言葉をそのまま書き記す書記官もその言葉を聞いて貴族達とその場を後にする。残ったのはシグハと宰相、そしてエレレン王だ。先ほどの言葉が人払いの願いだった事を彼らは確かに汲み取っていた。皆が出て行き、閉ざされる王の間の巨大な扉。ここに残った彼ら三人の会話を聞く事の出来る者は誰も居ない。


「真の報告をせよ。シグハよ、魔神はどうなったのだ。」


「結論から言いますと生きています。今は私の屋敷にて部下に世話させています。」


「……世話だと?」


「はい。水晶から出てきた魔神と思われる者はただの少年でした。それも、記憶喪失の。」


シグハの言葉に考え込む王。何故なら、それらは誰もが予想しなかった状況だったからだ。かつて勇者と英雄達は魔神を葬る事が叶わず、多大の犠牲を対価にやっとの事で封印を施した。そう記述されているのだ。予言の書と呼ばれる、その時代の賢者が残した書物には怒りを司る魔神は復活する……と記されている。誰もがそれを世界の滅亡と思って育った。


しかし、それが事実と異なるならばどうだろうか。怒りを司る魔神が復活すると記されては居るが、それによって世界が滅亡するとはどこにも書いていない。何より、その先にも幾つか予言が残されている事を思えば、魔神が復活して暴れないのも不思議な事で無いと思える。


「陛下、提案が御座います。」


ずっと黙って会話を聞いていた宰相が一歩前へ出て言葉を紡ぐ。思考の渦に飲み込まれていた王と、早く家に帰りたいと願う壮年が彼に目を向ける言葉が続いた。


「魔神をシグハに預け、我々人間の元で生活させてみては如何でしょうか?」


それはあまりにも馬鹿げた言葉だった。国の上層部を丸ごと恐怖に陥れた恐怖の対象と生活を共にする。誰がそんな事を考えるだろうか。王は先ほどまでの険しい表情を何処へやら口を半開きにして宰相の真意を聞こうと黙ったままだ。


「もし仮に封印が解けたと聖国に伝わりましたら、大変な事になってしまいます。聖国は魔神の封印の管理の為だけに過去に戦争を仕掛けて来た国ですぞ。魔神を刺激してしまえば、それこそこの世の終わりを招いてしまうやもしれません。ならば、封印は解けてないと情報を流し、魔神が記憶喪失の内に我々人間への情を育ませるのです。」


宰相の話す事は的を射ていた。魔神を殺す事はどうあっても出来ない。何故なら魔力を用いた術は大した効果を持たないとされており、魔神を貫く事の出来る武器は聖剣だけなのだ。その剣もこの国に一振り保管されては居るが、それを使う事の出来る勇者を召喚出来る国は聖国しかない。そしてその聖国とは昔より犬猿の仲なのだ。下手に頭を下げては何を要求されるか分かった物では無い。ならばカガクとやらを使う事の出来るシグハに任せるのが一番だろう。


「なるほどの。良い提案だ。シグハよ、引き受けてくれるか。」


「………………御意。」


宰相の言葉の意図を瞬時に理解した王。彼がシグハに問いかけると、シグハは面倒そうな表情を浮かべた後で頷く。それを見た宰相とエレレン王は静かに笑顔を浮かべ、一先ず今後の心配を横に置いて友人同士へと戻る。跪いていたシグハが静かに立ち上がると三人並んで王の間を出る。


「さて、堅苦しいのは終わりだ。シグハ、セネル。お忍びに付き合ってくれ。今日は飲むぞ。」


彼らは約束していたのだ。魔神が復活してもなお生きているなら、昔の様にまた3人で食事に行こうと。

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