その名も呪い師4
そんな取り留めの無いことを考えていると、美弦がや畏まった体で名乗った。
「改めまして、私は高天原美弦と申します。こっちは弟の美里です。ほら、美里ちゃんとご挨拶なさい」
美弦が弟に対して促す様は、完全に子供を躾る時のそれと一緒だ。
しかし、彼の意に反して美里は輝と挨拶を交わす気なんてさらさらないようだ。
「……ふん」
短く鼻を鳴らして顔を背ける美里に、美弦が再び申し訳なさそうに頭を低くする。
「輝君。本当に、すみません!」
その様は、なんかもう兄と弟というより、母親と子供みたいな関係性だ。
(そっか。こいつは小学生だと思えばいいのか……)
初めは不躾な態度を向けられて腹立たしかったが、こちらも奴の存在など、見て見なかった振りを決め込むことにして怒りを流した。
そして、ひとしきり謝罪を行った美弦が身の上を明かす。
「私達は呪いを生業にしてる呪い師です」
「まじない…し……?」
それは、初めて聞く言葉だった。
「ん~、霊媒師とか霊能師とかの方が伝わりやすいですかね?」
「ああ、除霊とかしたりするあの?」
「そうですねぇ。もちろん除霊も行いますが、でも、最も重要な使命としているのは魂送と、魂、及びカルマの浄化です」
「……たまおくり? カルマ? 浄化?」
耳慣れない言葉の数々が怒涛の洪水のように押し寄せてきて、輝の脳内はついに混乱を極めた。
眉を顰める輝に美弦が慣れた様子で浮かべた笑みを崩さずに説明を重ねていく。
「輝君は、あの神社で人型の黒い影のようなものに襲われたと聞きました。それは、合っていますか?」
「え? あ、はい。そうっす」
「輝君が遭遇したのは、人ならざるものの負の想念体……つまりは怨霊です」
「はぁ……怨霊」
何となくそんなものだろうなと思っていたが、こうして改めて他人の口からその語句を聞かされると、どうしても戸惑いを感じてしまう。
だって、実際に悪霊や怨霊だのなんて話を聞かされて簡単に受け入れられる人なんてそうそういないだろう。
まさしく、中二病でも患っていない限り。
「この世を去ったばかりの霊魂は、そのほとんどが想念を纏っています。楽しい、嬉しい。悲しい。痛い。辛いなど、人間だった時に持ち合わせていた感情、全てが想念です」
美弦が何も知らない輝の為に分かりやすいように言葉を選んでいることが伝わったので、輝は静かに耳を傾けた。