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その名も呪い師3

「もう、くれぐれもおもてなしは丁重にねって言ったのに……『解!』」


 男性の一声であの憎たらしかった縄も札もはらりと床に落ちた。


「あァー、死ぬかと思った……」


 まさかこんな無機質な部屋で、酸素が臓腑に染み渡る喜びを感じることになるとは。


 朝起きた時には夢にも思わなかった。


「弟が悪かったですね。後でちゃーんと言い聞かせておきますので」


 生きている実感を噛みしめる輝に縄を解いてくれた男性が謝罪の言葉を掛けた。


「……ほんとだよ。お客様なら、もっと優しく扱えっての」


 輝は元凶の男に向けて、聞こえるように恨み節を放つ。


 すると、当然のように言い返された。


「お前が逃げようとするからだろ」

「いや、逃げるだろ、普通! あんな表情で迫られたら……って、」


 繰り出された暴論にすかさず反論していると、とある単語が耳に引っ掛かってきた。


「弟ォ?!」


 輝は盛大に驚きながら、目の前に並ぶ二つの顔を交互に見比べた。


 だって、兄弟と言うこの二人、驚くほど全然似ていないのだ。


 いや。この二人の何を知っているのかと問われれば、知らないが。まったくもって、知らないのだが。


 初対面の輝から見る限りどちらも整った顔立ちはしているけれど、互いに抱かせる印象はまったく違う。


 兄はどちらかというとたれ目で、会話中も人好きのするような笑顔を絶やさない。


 それに対し、弟の方は、すっと通った鼻梁に意思の強そうな切れ長の目つき。


 しかも、つねに無表情を崩さず、ずっと眉根が寄っているので不機嫌そうで近寄りがたい雰囲気がある。


 まさに陰と陽のような至極対照的な兄弟だ。


「そうですよ。私は美里の兄です。あれ? 美里から何も聞いてなかったのですか?」


 美弦がきょとんとした表情で尋ねてくる。


「……まず、あんた達が何者かも知らないんですけど」


(ついでにあんたの弟が美里って名前なのも、今初めて知ったんですけど……)


 輝の回答に美弦は、ぱちくりと瞬きをすると、「弟」の方を向いて幼い子供を叱るように言った。


「こら、美里! ろくな説明もしないで連れてきましたね?」

「……」


 しかし、美里は我関せずといった様子でそっぽを向いている。


 どうやら兄の手を持ってしてでも弟の操縦は容易ではないようだ。


「ったく、このきかんぼうめ。……輝君、本当にすみません。愚弟がとんだご迷惑をお掛けしたようで」

「あ、いえ。こちらこそ、すみません?」


 この場合、正しい答えは「大丈夫です」になるのか。「とんでもないです」になるのか。


 答え方がよく分からずに、変な返しをしてしまう時があるけれど、自分だけだろうか?

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