出会い1
出会いが人を変える。
輝がその言葉の意味を実感するようになったのは、高校生になって初めての夏を迎えたばかりの頃だった。
それまでの輝には、熱い情熱を注げる程の夢や目標なんてなかった。
受験勉強では特に骨身を削る思いをすることもなく。
現在自分が通う高校へは、自分の身の丈に合った可もなく不可もなくの範囲から適当に選び、入学した。
そんな風に進学した高校では、程々に勉学に励み、程々に友人たちと青春に耽り3回目の春で卒業して。
卒業後は、適当に入った大学で。
時にはレポートに追われながらも、サークルやキャンパスライフを楽しんで。
仕事先も、これまたそれなりのところに就職する。
独身生活を思いっきり満喫した後は、30間近になって漸く周りの空気に追われるように結婚して。
そしてその後は、奥さんと子供の3人で慎ましくもそれなりの人生を送るんだろう。
……なんて、平凡な人生設計を思い描くくらい。
しがない一介の男子高校生でしかなかった輝の人生は、特に取り立てて特筆することもないような至って普通のものだった。
そう、確かにアイツに出会うまでは。
◇◇◇◇
駅前の商店街の一角にある、赤無地を背景に黄色のアルファベット文字が目印のファーストフード店。
程よく空調の効いた店内は、夕暮れ時だと言うこともあって制服を着た中高生たちの姿で賑わっていた。
「……呪われた神社?」
そのうちの一人である輝はストローを口に咥えたまま、スマホの画面に落としていた視線を少しだけ前に上げた。
「そ。出るって噂らしい。《《美人》》な女の霊が」
小学生からの腐れ縁である黒瀬彰真がキメ顔で言う。
「はい。乙ー」
カップの中のものを完全に飲み切り、トレーを手にした輝は席を立とうとした。
「ちょ、待て待て待て! 今度は! 今度こそ、絶対本当なんだって」
しかし、彰真によって無理やり椅子に引き戻されて、仕方なく腰を落ち着ける。
彰真は、輝が尻を硬い椅子に押し付けたのを無事に見届けると、話したくて堪らないと言った様子で話し始めた。
「実際、"視た”って奴の話だと、夜な夜な白装束姿の女が泣きながら、こう、腕をだらりと伸ばしてな? 誰かの名前を呟きながら、うろついてたんだ。……絶対、自分を呪い殺した奴のこと探してんだよ、あれは」
「まるで《《見てきた》》ような口ぶりだな」
輝はストローの紙袋を意味もなく折り畳みながら、彰真の話の矛盾点を突いた。
わりと付き合いの長い輝から見ても、お世辞にも賢いとは言えない彰真は、輝が指摘した意味が分からずに首を傾げていた。
しかし、きっかり3秒程経ってから、漸く理解したらしい。
「あ」と間抜けな声を漏らすと、慌てて訂正する。