出会い16
「す、すげぇ……」
目の前で繰り広げられた光景の、あまりの優美さにぽかんと半開きに空いた輝の口からは、稚拙な感想しか出なかった。
美しいものに性別なんて関係ない。最近何かで耳にした言葉だが、今なら多少は頷ける気がする。
……なんて、少しずれた感想を抱きながら、神秘的な景色に見惚れていたら。
「行くぞ」
そんな輝の腕を今しがたの気品さの欠片も感じさせず男が強引に掴んで歩き出した。
「え、ちょ、行くってどこにだよ?!」
「行けば分かる」
「いやいや、分かんねえよ!」
「……ちっ」
「舌打ち?! おい、痛ぇって、離せよっ」
「離したら逃げようとするだろ」
「……」
(当たり前だろ! 今時こんな怪しい奴に、どこに大人しく着いていく人間がいるんだよ?!)
本当は、声を大にして反論してやりたかった。
とは言っても、何を言っても聞く耳を持たないこの男には何の反撃にもならないだろう。
一難去ってまた一難。どうすれば意味不明なこの状況から脱せられるのか。
新たに現れた悩みの種に支配されかけた所で、輝は大事なことを思い出した。
「つ、つぅかさ、あの子は?」
「あ?」
「ほら、向こうに居ただろ? 女の子!」
「……女?」
「そう! 俺たちと同い年くらいの女の子だよ!」
またもや己の進行を無理やり邪魔された男は、惜しげもなく凶悪な目付きを晒し出し、呆れたようにその視線を降ろして言った。
「……何を言っているんだ」
「え?」
「ここにはずっと誰もいないぞ」
「え?」
「……」
「……ま、マジ?」
「ああ。《《生きている》》人間はな」
「……!」
「お前の勘違いじゃないのか」
彼により黒い靄たちが一掃され、もう遮るものは何もないと言わんばかりに拓けたこの場所は、男の言う通り俺達以外の姿はなかった。
さっき、確かに言葉を交わしたのに……。
(まさか、あの子も幽霊だったりして……?)
恐ろしい可能性が浮かび上がってきて、輝は即座に頭の中で打ち消した。
「って、てか、それより! 何だよ、さっきのあれ! お前が出した光る球体! 一体何をしたんだ……よ……」
引きずられながらも、必死に抗議する輝の首筋に脳天を突き抜けるような衝撃が走り、一気に視界が反転した。
男によって手刀を打ち込まれたのだと理解した時には、輝の意識は既に暗闇の中に溶け込んでいた。