出会い15
しかし、長髪に白装束の男は身なりも変わっているが、物事に対する優先順位はもっと可笑しかった。
「あ? ……あぁ。あんなのほっとけ。そんなことより……」
「いや、よくない! よくないから! あいつら、さっき消したんじゃないのかよ?!」
「さっきは散らしただけだ。怨霊は浄霊しないと簡単には祓えない」
「浄霊って? うわ、ま、また来たぞ……!」
地面に伏せっていた黒い塊が次々にのそりと立ち上がった。
それは、先程輝を直接襲ってきたやつと同じような人型のようにも見えるのもあるし、簡単には形容し難い形状のものもいる。
辛うじて人の原型を留めているものでも、そこにあったと思しき目は、すっかり陥没しきって底知れない窪みを作っており、口元は輝らを今にも飲み込まんと大きな穴を開けている。
とにかく、そんなどす黒くて奇妙な形の何かが大量に耳障りの悪い呻きを発しながら、ずくずくと地面を引きずって近寄ってくるのだ。
軽くどころか普通に恐怖映像だ。
「他のも呼び寄せたか……面倒だな」
ちなみに、見た目は自分とさほど年の変わらなそうなこの男。
恐怖で声が上ずる輝とは対照的に、酷く落ち着き払っているように見える。
「……仕方ない」
小さく舌打ちした男は、目を瞑るといきなり黙り込んだ。
「え? 何で急に目閉じてんの? 何で何も喋んないんだよ! もう、訳分かんないですけど?!」
「うるさい! このまま、黙って後ろに隠れてろ」
乱暴に言い放つと、男が懐から扇子を取り出し、慣れた手つきでそれを広げた。
『彷徨える魂たちよ、我の導きに従いてあの光の元へ還り給え……葬送』
祈るように何かを呟いた男の手の動きに合わせて、飾り紐の先についた鈴がシャンと軽やかな音を出す。
「……っ」
次の瞬間、目を開けていられない程の眩さが辺り一面を覆った。
やがて、それが弾けてまた再び静けさが訪れる。
「うわぁ! 何だよ、これ!?」
その光景は、まるで神の所業だ。
輝がそっと閉じていた瞼を開けると、数多もの光の粒が、輝たちを取り囲むように夜空を舞っていた。
一つ一つは人間の親指程のちっぽけな光でも、それが無数ともなれば、どうやら人は目を奪われてしまうらしい。
蛍の光のように金色に輝く温かな光の数々が面白みのない漆黒を柔く彩っていく様を輝は夢中で追いかけた。
「再び時が満ちゆくその日まで、どうか優しい夢を」
男が近寄ってきた一つに触れると、光の粒は、まるでその意味を理解したとでも言わんばかりに大きく一回転すると、男手のひらから旅立っていった。
そして、飛び立った一つを追いかけるように、光の粒たちは、次々と天高く登っていく。
それらを静かに見つめる男の端正な横顔を、再び顔を出した月が照らしていて。
いつの間にか解かれていた彼の艶やかな黒髪が優雅にはためき、よりさらに神懸った美を演出していた。