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出会い13

「……っ、」


 完全に空気が凪いだのを瞼の裏側で感じ取ってから、恐る恐る目を開けた。


 そうしたら、なんとあの黒い影の姿はなくなっていて。


 その代わりに、背中の中ば程まである長い髪を低い位置で一つに結わえた白い服を着た人間が立っていた。


(女? いや、男……か)


 先程の低く艶のある声を思い出す。


 男が中肉中背で只でさえ暗闇では背格好だけでは判断し辛いのに、長髪に白装束という装いがよりそれを困難なものとさせた。


「そんな身体でこんな所に来るとは、よっぽど死にたいらしいな。まったく、どこのどい……つ……」


 振り向きざま、男の言葉が不自然に途切れた。


「……お、おまえ」

「?」

「な、何で……ここに」


 覗かせた顔は思わず彫刻でも鑑賞しているのかと思ってしまうくらい人間離れした美貌だった。


 一つ一つの線が細く、それでいて見た者の記憶を掴んで離さない紫が滲む黒の瞳。左目の下の泣きぼくろ。高くてすらっとした鼻。桜色の薄い唇。


 どこを取っても芸術的で、どこか繊細で氷のような冷たさを纏わせた完璧な彫刻美が驚いた表情で輝を凝視する。


(……俺の顔に何かついているのか?)


 輝は首を(かし)げた。


 登場した瞬間から流暢に皮肉らしきものを並べ立てていたこの男。


 それが輝の顔を見た瞬間に、壊れた機械のように「なんで」と同じ言葉をひたすらに繰り返し始めたからだ。


「言え!」

「……え?」

「どうしてお前がここにいる?!」

「どうして? んなこと言われても……」

「いったい、誰に連れてこられた? 話せ。全部だ。全部包み隠さず話せ。吐かなければ殺す」

「……殺す? じ、冗談だよな?」


 にじり寄ってくる男の凄まじい形相が恐ろしくて、輝は思わず後ずさった。


 人形と表現してもおかしくないくらいに整った顔立ちの男の睨みは、夜闇も相まって身体中をぞくりと震撼させる。


 しかし、その行為が美丈夫にはお気に触ったらしい。


「逃げるな!!」


 男はキッと眉尻を釣り上げると、空気がぶるぶると震える程の勢いで一喝した。


(なんか、めちゃくちゃ怒ってんだけど、この人!)


 輝は一層たじろいだ。気分はさながら、突然あらぬ嫌疑を掛けられ、取り調べを受ける被疑者そのものだ。


「目を反らすな。こっちを見ろ」

「……逃げてねぇし」

「嘘だな。やましい事があるから逃げるんだろ」

「だから、逃げてねぇって」

「選べ。このまま、燃え尽きて灰になるか、大気の塵と化すか。どちらがいい?」


 男の五指に摘まれた幾枚かの黄と白の札が怪しく発光する。


 ニコリとも笑っていない男の目からは、本気の意思がひしひしと伝わった。

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