出会い12
(嘘だろ?! さっきより、スピード上がってねぇ?!)
一度立ち止まれば、簡単に追いつかれそうな距離に影がいたからだ。
動き始めは酷く緩慢だった癖に、走る速さは人間以上のスピードだなんて。
完全に第一印象詐欺で訴えてやりたい。
もしかしたら、身近な四足歩行の動物の中でも走りが速いとされる犬やイノシシたちと遜色ないかもしれない。
そんな“殺意”を持った影は奇声を上げたり、石を投げつけたりして、此方がどんなに威嚇しても、おかまいなしにどんどん距離を詰めてくる。
時間が経てば経つほど、夜目が利かない輝にとって真夜中の鬼ごっこは圧倒的に不利だった。
視界が想像以上に狭い中、掻き分けるように突き進んだ暗闇も、影にとっては屁でもないらしい。
適度に遊んで影を元居た場所から引き剥がすつもりがあっという間に立場が逆転して、完全に追うものと追われるものの縮図となってしまった。勿論、追われる側が輝だ。
これで何度目か。疲労を感じた足が縺れかけたかと思えば、輝の項をあの生温かい息が掠めた。
(やばい、呑み込まれるっ!)
とうとう追いつかれて、視界が真っ黒に塗り変わりかけた時。
『散ッ』
短く低い声と共に、視界の端で一枚の札が空中を舞い、大きな衝撃波が襲った。