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序章

「……遅かったか」


 その場所にたどり着いて早々に、(てる)は呟いた。


 輝が立っているこの場所は、その昔激しい合戦があった場所で有名な古戦場跡だ。


 血みどろの争いにより、数え切れない者たちがそこで命を落とした。


 敗者側の生き残りや、女子供含めた一族全員が見せつけとして残忍な方法で処刑もされた過去も持つ。


 悲惨な死を迎えた人間が普通の人と同じように成仏する事は殆どない。


 大抵が現世に強い恨みや執着を抱えてこの世を彷徨(さまよ)っている。


 だから、本来ならそこは、負の想念に塗れ、どんよりと淀んだ場所なはずだった。


 しかし、輝の目の前には、想像に反して無数のきらきらと光り輝く小さな粒たちが夜空を舞っていた。


 漆黒よりも深い闇夜を彩る、蛍のような光の粒。


 その正体は、誰かの手によって浄化され、還るべき場所へと導かれた魂だ。


 魂たちは、負の渦から解放された喜びを表現するかのように無邪気に飛び回っている。


 すると、その内の淡い光を放つひとつの魂が輝の元へふよふよと飛んできた。


 そっと腕を伸ばすと、その魂は最後の終着点とでも言わんばかりに輝の手のひらの上に留まった。


 素肌に触れたところから、微かな温もりと、彼の持つ安らぎがじんわりと伝わってくる。


 それらに混じって凛とした小さな音も聞こえてきた。


 どうやら、彼らを還るべき場所へと導いたのは、せせらぎのような鈴の()だった。


 至極聞き覚えのあるその響きに、輝は自ずと息を飲んだ。


(いたんだな、あいつがここに……)


 尋ね人の軌跡を改めて実感すると、頬を撫でる風に混じって、血の香りが微かに輝の鼻をついた。


 辺りを見渡すと、無造作に飛び散った人間の血が月の光に反射して草木を赤く艶めかせている。


 赤黒いその血の量から察するに、怪我の具合は決して軽いものではないだろう。


「……クソッ」


 輝は舌打ちすると、深呼吸のような長くか細い息を吐き出し、足元の惨状から目を背けるように月夜を見上げた。


(……なぁ、お前は、自分の命を代償に誰の願いを叶えているんだ?)


 そして、今夜もまた返って来ることのない問いに呼応するように、輝の手のひらの中で最後の光が消えた。


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