8.鳴神先輩、邂逅
ようやく男が出てきました。この小説は乙女ゲーの世界が舞台です、とようやく言える気がします…!
目を開けたら、知らない天井でした。っていうのはお決まりの台詞なんだろうけど。
私はここを知っている。チュートリアル負けバトルの後、運び込まれる場所。
清浄学園の保健室であり、異形の被害にあった一般人向けのケア施設だ。だから保健室、っていっても規模は病院並。検査も治療もお手の物。清浄学園は医学部もあるんだけど、異形の研究とかもしてるみたい。設定ガイド買ったけど、全部攻略するまでおあずけしてたからなー。読んどけばよかった。
で、起きた時に人の気配があったから右を見た。
枝毛とか絶対存在しないだろうな、と思われる艶やかな黒髪。しかも長い。おまけに、人形のような白い肌。ってか睫毛長い。着物とか似合いそうな美人、ただなんとこのべっぴんさん。ーーー男だ。
ネクタイをきっちり締めて、椅子に座って文庫本を読んでる。私が起きるの、待ってたんだろうね。
攻略キャラ、パッケージの姿絵もセンター寄り。このお方だけエンドが二つある優遇っぷり。清浄学園高等部三年、鳴神誠一郎。つぐみたんの従兄で、公式のあだ名が姫兄様。職業はつぐみたんと同じく、魔術師です。
「……よかった、起きたね。身体はもう大丈夫かな?」
うわー声は間違いなく男性。聞き心地がいい低音、でも低すぎないのがいい。寝起きに優しい声。みずきちちゃんが鳴神先輩の声優のファンクラブ入ってるのも、納得ですわ。
「問題ねーっす。……べっぴん、さん?」
我ながらよく覚えてるよ、桐谷が鳴神先輩に初めて会った時に言った台詞。顔面美人さんだけど、ネクタイだしなんなら胸はない。それだけなら男の服が好きなのか?って思ったけど声は男。寝起きで混乱した桐谷が、首を傾げて確認するのが初見は笑った。
鳴神先輩、本を閉じて、困ったように笑ってる。悪意がないというのもわかってるし、この人大抵の無礼は許すんだよ。仏か。
「……誉めてくれるのは嬉しいけど、僕は男だよ。一緒に来てほしい。会議室で理事長と、みんなが待ってる。歩けるかい?」
ここで選択肢で手を借りるか、借りないかでスチルが変わるんだけど。鳴神先輩は初期好感度が高めなので、どっち選んでもメインイベクリアしてたら攻略できたりする。つまりちょろい。
「大丈夫、動けますよ。わ、っと……アタシ、昔から丈夫だから」
アタシって自分の口から言うの、ものすごく違和感しかない!とりあえずベッドから出る時ふらついたふりして、誤魔化した。
「無理しないでいいからね」
ふらついたふりをした時、手をそっと握って私が立つアシストをしてくれた。中身は紳士、そして優しい。おまけに、動けるって私が言ったから意思を尊重してちゃんと手は放してくれる。外見が女性的だったから推しではないけど、どきっとさせられる。てか異性の手触るとか、生きてた時は高校のフォークダンス以来だよ。てか、アシストはゲームにはなかった。
……ゲーム外の出来事を見ると、改めてここが現実世界だと実感させられる。
とりま、礼儀は返そう。小さくお辞儀した。
「どーも、すんません。……恩に着ますよ、えーっと……?」
私は一方的に知ってるけど、桐谷として初対面のふりをしなきゃいけない。わざとらしくなってないよね?
……まぁ、初対面だから言葉づかいは乱れてもいいんだけどさ。でも桐谷が後々困るからなぁ。
「鳴神誠一郎、清浄学園高等部三年に在籍してる。桐谷さんの先輩になるから、困ったことがあれば何でも相談してくれて構わないよ」
優しいし美人、そして線は細いけど身長は高い。説明書のプロフでは175㎝、だったはず。おまけに姿勢も綺麗。私が女性的美形に興味が薄いから攻略は淡々としてたけど、現実にいると眼は惹かれるよね。
「あざ、いや。……ありがとうございます」
桐谷は以外に年上には礼儀正しかったりする。それに倣って小さくお辞儀し、鳴神先輩の後ろに着いて、移動することにした。
ーーー次のイベントは、恐らくキャラクター紹介イベだろーなと予想しながら。