7.桐谷の頼み事
今のところ男が出てこない乙女ゲーが舞台の話。次はちゃんと、男出ます……!
とりあえず、土下座はなんとか止めてもらった。主人公の土下座とか見たくない。
……や、ゲームの中ではやってたけど。実の祖母に。
「で、救うってどういう意味で?」
救われ方にも、色々ある。これ以上罪を重ねない様に命を絶つ、もしくは生きて罪を償わせる。改心させる等々。私が思い付いたのは、それぐらい。
「……あいつは、今日燃やした山崎や響、竹村や鶴野以外にも命を奪ってるんだよな?」
小さく頷いた。強力な異形程人から栄養を貰ってる。異形によって何から栄養を貰ってるかは異なるけど、吸血鬼なら血。人の血を飲み悠久の時を生き永らえた、始祖なら間違いなく今までにも、殺してる。
餌か、眷属になるかの違いはあるかもだけど。
「……トキワは、一匹狼だったアタシの初めての友達だ。トキワの隣が、アタシの場所だ。今もそれは変わらない」
桐谷の両手は拳を作り、ぎゅーっと握り締めている。
「トキワにこれ以上罪を重ねさせたくない、もう誰も殺させたくない。トキワの罪を、一緒に背負ってやりたい。……でも、アタシはトキワを殺せるかわからない。だけど、他の奴らに殺させんのはもっと嫌だ!丁度いい方法とか、ねーのかなぁ……?」
強気なキャラが、ものすごく萎れてる。レッサーヴァンパイアになった仲間であり友人達を倒さず、喧嘩して峰打ちにしようとした優しい桐谷だからね。
ちなみにゲームでは、弱体化のアイテムを使用して互角に戦い、ぼろぼろになりながらもトキワを狩る。
異形は、罪を重ねすぎた。トキワに成仏してくれ、と言った桐谷に戦闘に同行した攻略キャラが告げるんだ。
『異形の魂は、天に召されない。消滅するだけなんだ。罪深い彼等に、輪廻転生は存在しない』
それを聞いた桐谷は、泣く。トキワという存在が消えてしまったことに。ただ、攻略キャラは桐谷にダンピール固有能力を教えてくれる。狩った異形の力を、血を飲む事で一部取り込むができる。ただ、強力な異形の力を取り込むのは負担も大きい。取り込むか?と聞かれる。ーーー無言で、桐谷はトキワの朽ちかけた遺体から血を吸うんだ。あれは尊いシーンで、桐谷が乙女ゲー主人公では珍しくキャラ立ち絵が存在しても、何も言われない。むしろ桐谷単体人気も高い。私も桐谷のキャラは、嫌いじゃなかった。
………っと、無駄に振り返った。でも、殺さない方法か。レベル上げしても、封印術覚えないんだよなぁ。ダンピールの桐谷がレベル上げして覚えるのって、状態異常無効と解除、自己回復、全体回復、蹴り技殴り技竹刀での殴打技。レベル50のカンストでようやく、トキワの必殺技と同じ『魂吸い』をーーーあ。
「……あのさ、人間辞める可能性あるけど、やる?レベル上げ。期間は一ヶ月しかないから、かなりハードだけど。地獄見るよ?普通に倒した方が楽まであるよ?」
私がどんなゲームでもやってる事、レベル上げしといて楽に勝つ。桐谷はレベルカンストで、トキワが使う技『魂吸い』を覚えるんだけどさ。二次創作で桐谷がトキワの魂を吸ったら、二人ずっと一緒でハピエンだよね?というのが少なからずあるのよ。
ーーーリアルで、それやったらどうなるんだろう?
桐谷の身体は、どれぐらい負担がかかるんだろう?そもそも始祖の魂なんて取り込んで、ダンピールのままでいられるの?というリスクも高い。おまけにVSトキワのイベントは5月始め、一ヶ月みっちりレベル上げはリアル肉体では本気でしんどいだろう。
でも、桐谷はもう萎れてなかった。真剣な眼で私を、見てる。眼には熱気が宿ってる。
「地獄なら、今日もう見た。何もできない方が地獄だ、トキワのためなら、なんだってする」
桐谷は私に右手を差し出した。私は、それに応じて握手を返した。
「オーケー、出来る限りのことはしよう!……って、そろそろ起きる頃合いだよね?どっちが動く?」
首を傾げて桐谷に問う。15年生きてきた桐谷の身体を、さっき私が勝手に動かしてたからね。
さっき自分で転生とか思ったけど、もしかしたら桐谷に取り付いてる幽霊とかの可能性もある。いつ私が成仏してもおかしくない、人に害を与えていない幽霊は異形扱いされないけど。桐谷に取り付いた悪霊扱いは、少しまずいかな。消滅はいや。
……いや、取り付いてる扱いでつぐみたんの手で消滅させられるとかもあり……?
「……言っとくけど、てめぇの心中丸聞こえだからな。まともなことだけ考えろ、頭いてぇ」
さーせん。オタクなんて煩悩の塊だから。
「オレンジさん、あんたが動いてくれ。あんたが動いてる時も、あんたが何してるかの動向はわかる。アタシの記憶も共有しとけ?身内に街で会った時めんどいから」
小さく頷いた。共有の仕方は、なんとなく勘でわかった。目を閉じて、ゲームを起動して、セーブデータを開くイメージ。
……桐谷の言葉づかい、真似できるかなぁ。
「さん付けやめてよ、らしくない。じゃ、また。……いってきます?」
「てめぇ、折角年上扱いしてやってんのに!……いってこい」
桐谷の笑顔を見た瞬間、意識はそこからブラックアウトした。