5.推しは近すぎると破壊力やばい
主人公、あんまり喋りません。
つぐみたんが説明しまくる回です。
いや、何で推しが説明係やってんの!?いや推しがにっこにこで説明やってくれんの、私得だけどさぁ!?駄目だ、ツッコミが入れらんない。どこの二次創作だよ、つぐみたんが鳴神先輩を差し置いて説明役。まさかつぐみたんと友情エンディングルートがある設定なの!?でもそしたら誰がラスボスやんの!?
ひたすら唖然とする私に、推しは惜しみ無いにっこにこの笑顔だ。天使かよ。
「いきなりだし理解できないですよね?お姉さん、今日色々あったんですから。友達死んじゃうし、友達が異形ーーーあ、化物のことですよ?おまけにお姉さんは死にかけて、狩人に覚醒しちゃったんですから!いっこずつ説明しますよ?耳しっかり傾けてくださいね?」
小さく頷いた。何度鳴神先輩のチュートリアルをスキップしたが、つぐみたんなら絶対スキップしません。
「まず、異形っていうのは化物のことです。人間に害を与える化物達のことを、異形っていいます。異形にも色々あるんですよ、さっきみたいな吸血鬼ーーーあれは始祖と呼ばれるぐらいの大物ですね。後は幽霊とかお化けとか、色々います」
丁寧な説明ありがとう、つぐみたんが説明してくれたおかげでちゃんと覚えている異形設定を、復習できたよ!
「そして、狩人とは生まれながら異形を狩る特殊能力を持つ人間のことです!ただ、稀に貴女みたいに異形に襲われて化物にならず。後天的に特殊能力を手に入れる人がいるんです!前者が先天性、後者は後天性です!……貴女は始祖に血を入れられて、後天性ダンピールになったんです」
うん、私のゲーム知識と差分はないね。流石つぐみたん、推しの説明だとすんなり耳と脳みそに入ってくるわ。
「で、最後に清浄学園の説明です!清浄学園は、若い狩人達の通う学校です!異形を狩ると、学校からお金も貰えます!表向きは、中高大一貫の私立校ですね。異形に被害を受けた人の、ケア施設でもあるんですよ」
うん、つぐみたんが喋ってるだけで設定に変更は一切無い。ひだヴァンの世界観だ。
「……大人しく真面目に聞いてくださってますが、質問とかあります?」
推しが首傾げてるまじかわぐうかわさいかわ。変なこと喋ってキモオタばれたくないから、首を横に振るだけにした。
「じゃ、ここからは私の質問です。ーーー貴女の、さっきの戦いは素人じゃない。あれは喧嘩じゃない、戦術でした。最初から観察してたんですが、前半喧嘩で最後は人が変わったみたいに動きが変わりました」
つぐみたんが、私の頬を両手のひらで、包み込むように触る。赤い眼が、きらきらしてキレイ。そして、手めっちゃ冷たい。ーーー待って。
流石に温度差のある夢は、存在しません。
つまり、戦闘チュートリアルは現実。目の前にいるつぐみたんは本物で、何故か私は主人公の桐谷陽になってる。
ーーーあ、これ。ひだヴァンの世界に転生ってやつだわ。
「おまけに、貴女限界突破を無意識に使ってます。始祖がダメージを受けたのは最後だけ。ダンピールの能力を使いこなしたり、限界を超えるのは魂に誓いをーーーあ、あれ?もしもし?もしもーし?」
私は、疲労と、キャパオーバーと、推しに近付かれすぎて気絶していた。
推しの珍しく驚く顔を、私は見ることができず気絶してしまったのだった。