3.私と桐谷
ヤンキー系主人公、割と版権的に好きだったりします。
ふと意識が覚めたら、そこは真っ暗だった。
これ、天国?それとも地獄?人助けして地獄行きって酷いけどなぁ、どーせなら特別待遇を要求したい。
それこそ鳴神先輩トゥルーエンドを攻略させてもらいながら、つぐみたんが救われる所を見たい。
でも視界真っ暗、どうやったら明るくーーあ、なったなった。って、ちょっと待って。
なんで私、屋上にいるの?
しかも、勝手に動いてる。両手に握ってるのはーーー木刀!?
「ぐぉらぁ!トキワぁ、まだ勝負は付いてねーぞぉ!?てめえはやっちゃなんねぇことしてんだ!……ぶっ倒すから、降りてきやがれ!みんなの葬式やるぞ、で。ーーーちゃんと謝った後に、償え!」
この声と、喋り方、よく知ってる。この台詞も9回聞いた覚えがある。桐谷陽の、戦闘中の台詞だ。
そして、視界ーーー空を飛んでる蝙蝠のような翼を持つ黒髪の女子高生。この姿もよく知ってる。
始祖の吸血鬼、トキワ。仮の名前は黒森常磐だ。
……こ、こ、こ、この世界は。
ひだヴァンの、チュートリアル戦闘の後半じゃないですか……!
神様マジ神様。さいごに好きなゲームの世界観を見ながら天国逝かせてくれるとか、充分特別対応ですありがとうございます。
確か、もう少ししたらトキワの必殺技の魂吸いが来るんだけど。それをつぐみたんが、助けに来てくれるんだよ!踵落としで、必殺技中断してくれるの!
『……後天性ダンピールですね、まだ弱そうですが。どう育ちますかね』って、少し冷たい視線だけど、可愛い笑顔で!って待って。
戦闘の後半だよね、これ負けイベントなんだよ。経緯としては、ここは桐谷と常磐が通ってる学校で。よく放課後、素行が良くない仲間達で空き教室でお菓子食べながら、喋ってたんだけどさ。
今日、その空き教室に集まってた仲間、全員始祖の眷属の『レッサーヴァンパイア』になってたのよ。
桐谷は、そのレッサーヴァンパイアをピアスやネックレス等のアクセサリーで仲間だって理解して。
息切れしながらも、峰打ちでなんとか対抗したんだ。どんだけ強い身体能力してんの。
で、常磐に何が起きた!?って聞いたら、その眷属を指パッチンしたら燃やしちゃったのよ。
『陽は、私と永遠にいてくれるよね?』
はい、ヤンデレありがとう。桐谷はぶちギレ、竹刀で殴りに行ったけど始祖に人間が喧嘩売るとか無理ゲーでして。噛まれて、血を注がれた。
そしたら吸血鬼にも、レッサーヴァンパイアにもならなかった。ーーー後天性ダンピール、人でも異形でもないもの。桐谷は力を手に入れたんだけど、いかんせん。手に入れたものって訓練しなきゃ、使えないし。桐谷脳筋だから。上手く身体強化を生かしてないんだよね。
なのでこれは簡単な操作方法を教えるチュートリアルで、それが終わりかけてるとこ。だから、桐谷は強気だけど大分フラフラだ。
え、でも待って。
推しにこのフラフラなとこ見られるの?公式プロフィールに【好きなタイプ:強い人】って書いてあるのに?………それって、それって。
「陽が一緒にいてくれないんだったら、私と一つになろうよ。……魂は私の中でずっと一緒、だよぉ」
桐谷の意識が、途切れそうになった瞬間。私に感覚が戻った。
「………やだ。やだやだやだやだいやだあああああっ!」
桐谷の声色で、私の絶叫が空に響く。
ぎゅっ、と竹刀を握り締めて意識を集中させて。
本来なら、能力を使うにはとある言葉が必要なんだけど。桐谷はこの時点でダンピールになったばかりで、常に能力を解放してる状態だ。公式設定で見た。
ただ、桐谷は新しい自分の能力を使いこなせず。
でも、プレイヤーの私がチュートリアル無視して動かしたら、なんとかなるんじゃない?
「……踏み込んで、跳躍」
足に力を込めて、沸騰するぐらいに熱くなった血を巡らせる。そして、右足に力を入れてーーー跳んだ。
そして、常磐のいるところまで跳んだら、空中で左足でローキック。そして一緒に落ちる瞬間に、竹刀で面打ちを叩き込んだ。当然、腕にも血を巡らせて身体強化済みだ。
ーーー推しにかっこわるいとこ見られるのだけは阻止したい。
地に伏せる常磐を見下ろし着地した瞬間まで、そのことしか頭になかった。